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chapter.4-29
一室を後に食堂へ降りるまで、会話は案内との当たり障りないものだけだった。
運ばれてきたサラダセットを前にしても、萱島は手を合わせて早々と食器を取り上げる。
さっきのロザリオはジムの物だった。
御坂に質問していた内容は、少しも分からなかった。
戸和は、ずっと苦い顔をしている。
切り分けたニンジンを一口運び、咀嚼する。
どうにか飲み下した後、じっと固まった。萱島は意を決して顔を上げ、第一声を捻り出していた。
「――あ、あのさ」
「――沙南」
見事に被る。
思わず瞬きを繰り返す萱島を前に、戸和は先より落ち着いた目で二の句を寄越した。
「…あの船で、昔の知り合いにあったんだ。中東に居た時以来、かなり久し振りに」
「あ…そ、そう。それでさっき、気にしてたんだ…」
俄かに淀みなく滑り出す、彼の話は別に嘘をついている風もない。
何で、そんな事をそこまで言い辛そうにしていたのか。
イマイチ要領を得なかったが、萱島はふと先ほどの光景を思い出し、また手を止める。
中東に居た頃、ロザリオ。
そして生死を心配するなら、知り合いなんかじゃない。畢竟するに戸和の根幹へ関わる、とても大切な人物だ。
「連中に協力してるみたいなんだが、少し安否が気になって」
「少しじゃないんじゃない?」
自分の棘を自覚しながら、相手も見ず次のサラダを刺す。
「ずっと顔色悪いよ、気になるなら捜しに行こう」
「いや…良いんだ。彼は助けて欲しいなんて頼まないし、気にしてるのは俺のエゴだ。それに」
トマトが少し潰れた。零れた種を眺めつつ、萱島は続きの言葉を待った。
「考えずとも分かる話だった。俺が一番大切なのはお前だけだ」
有り難うって言えたら良かった、そこで。
一言素直になれば、それで終わる話だった。
「お前が危険に遭うなら、他所に首を突っ込む必要なんてなかった」
「…一番じゃなくても、大事じゃない訳ないよね」
君がまるで、此方じゃなくて、自分に言い聞かせているみたいだったから。
萱島はつい反論してしまったのだ。
自分たちが社長を捜した件だって、そうだった筈だと。
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