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chapter.5-2

『Well…いけませんね大尉、我々のMH-60Kはどんな天候や地形も把握しますが、貴方の健康までは管轄外ですよ』 「最もだ、ところでクラーク…お前は地図の向きを間違えたのか」 地球儀で言えば横に進む筈が、先からどうも南下している。 窓もない輸送機では外は伺い知れないが、体感で察した寝屋川を隣の副官が制していた。 「フィリピンの基地に寄り道します。再駐留決定で訪れている米軍やPMCの中に、貴方に会いたいと申し出た者が」 「会いたいだと?ウッド…また勝手な話を吹聴したんじゃあるまいな」 『――私も貴方のラストランだとお伺いしたのでね、なんだ、まあ…同窓会みたいなものですよ』 面倒なことになっていた、なにせ寝屋川は嘗ての仲間に声を掛ける気など無かった。 亡くなった部下らの、近い友人達がどうしてもと言うならば、今まで同行を許した例はあったものの。 「…遊びじゃ済まされねえんだ今日は」 近頃なんとなく感じていた。消えたと思っていた何処かの鼠が、再び視界にちらついて寝屋川を追い掛けるのを。 「国連が介入するぞ、また死傷者が出る」 『I know, sir』 「此方としても中東情勢を掻き混ぜるのは本意じゃない、殴っても付いて来る気ならサーチ&リカバリーを念頭に置け」 「通達します」 「経費は別途支給するが、報奨金はなし。但し全員生きて帰ってこれた暁には」 パイロットの視界が青一色になる。 内地をヘリで飛んでいた頃には見なかった、人災のない何処までも突き抜けるような大海を。 「俺が良くやったと褒めてやる」 越えた先にある過去に、我々はまた帰ろうとしている。 懐かしい声を耳にしながら、呼び起こされる陽炎が辺りへ立ち込める。 もうとっくに人々が忘れたであろう。 未だ任務終了を知らずにいる戦友を、砂の中から連れ帰るために。

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