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chapter.5-6

(あれ…?) 改めて思えば何故、誰も彼も真っ向から目も合わせず、近くに居たのにすっかり蚊帳の外へ放り出されているのだろう。 (そんなに俺) 瞬きを繰り返し、直後には自分で自分へ疑問を呈していた。 そりゃあ例えば第三者だったとして、自分に大事を相談しようと思うだろうか。 神崎のように伝手もない、本郷のような機転や包容力も、寝屋川のような無二の力を持っている訳でもなく。 「たしかに、しないな」 納得し、大人しく壁に背を預けて待つ。 それで諦めてしまうような器量なのだ、要は。戸和に責任転嫁して行動に不満を垂れていたが、結局の問題は自分の体内にある気がした。 (和泉、多分君は青い顔で戻って来るね) 寝屋川庵がイラクに向かったと知って。ISILと繋がりのある、自分の古巣が脅かされるかもしれないと憂慮して。 その経緯は微塵も零さず、きっと誤魔化すように此方の体調を心配して、次には心あらずで明後日を見て。 見えない亀裂とは、大袈裟だろうか。 しかし認識してしまえば、真実になるのが心というものだ。 やがて萱島の想定通り、灯りの少ない廊下から血色悪く現れる。 窮地であろう彼を努めて頭の悪い笑顔で出迎え、萱島は常の能天気さでランチの誘いを吐いた。          Chapter.5         Welwitschia         - 奇想天外 - 『――やあ、いつも可愛いね…――が?』 ザッ、ザッ。 ノイズ。 まるで郊外のラジオ。 肝心な内容もとれず、おまけに目を潰すような逆光で視界が白む。 『おっと――君にお願いが…パティ』 自分の名前が辛うじて届いた。もどかしいのに、手足はセメントで固められたように動かない。 『――…を、あの人に――、な』 貴方を私は知っている。 ひとつも名前は出てこないが、その背後に微かに見える他の人影も知っている。 知っているがそれ以上が、間近の貴方の顔すら分からない。 この視覚を奪う逆光が、邪魔だ。今恐らく、彼の後生である、大切な約束を ”渡して” 唇が形作る、ほんの些細なお願い。 ――に、必ず。 小さな君に託す、この 「手紙、」 パトリシアの手が宙を掴んだ。 はっきり耳に届いたのは自分の声だった。 やっと開けた世界には見慣れたモルタルの天井が広がる。 息を切らし、汗だくの額を抑え込み。少女は漸く自分が夢から覚めたことを悟り、ベッドへ怠い手足を投げ出していた。

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