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chapter.5-8

「実はね…パトリシア、君に伝え損ねていたことがあるんだ。未だ役員だけの話で内密にして欲しいんだが、以前から我が社はとある計画に携わっていてね」 「は、はい」 役員、内密、等のセンテンスへ、緩んでいた筋が再び締まる。 室内は空調が強く、時折綴じられた資料の端をパタパタとはためかせていた。 「我々は知っての通り、武器商社だね」 確認するように、一文で区切る。 素直に喜べない視線を受け止め、パトリシアは黙って頷いていた。 「ISILは間もなくイスラム国家の樹立を宣言するだろう、其処に我々は手をつなぐ。彼らの武器を確保し、共に平和な世界をつくろうという考えだ。但しそれにはもっと仲間が居る。近隣国も、幾つか味方になればもっと良い…分かるかな」 セフィロスは、些少なりと上に立つ才能はあるのだろう。 子どもにも容易に飲み込める表現を選び、少女の滞りない相槌を引き出した。 「仲間にするには、いいお礼が必要だ。そのお礼の品を今、我々はどうにか手に入れようと交渉している。パトリシア、今から君にはそのやり方を聞いてもらう」 「…どうしてですか?」 声は、引き攣っていた。 当たり前にそうなる。今まで簡単な雑事ばかり引き受けていた、自分でも蚊帳の外を自覚する子供に、どんな思惑で。 「君の力が要るからだよ」 ぎゅっと下唇へ歯が食い込む。 恋より喧しく心臓が跳ねたから、自分はこの言葉を心待ちにしていたらしかった。 先日市長から表彰された。 周囲の役人も拍手を送っていた。パトリシアに向けて、パトリシアでない、父親の功績について。 「今からアメリカへ向かい、ある人物に接触して欲しい。護衛はつけるし、話は分かる男だ。君に危害はないだろう」 セフィロスの喋りが途絶え、何やら懐から手帳を取り出した。 次いで挟んでいた厚紙を机に並べると、少女の側へついと押しやる。 「この男に見覚えは?」 「…あ…、あります」

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