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chapter.5-9

切れ端ほどの記憶を掘り当てたのは、男の容姿がそれほど印象的だったからだ。 陰影が青い、不思議な銀髪。 息が止まりそうに鋭い目。 目にしたのはもう随分前だ。今はきっと、パトリシアの自室で埃を被っているであろう一通の。 「…生前もらった、父の手紙に写真が入ってました。親友を紹介するって」 「素晴らしい記憶力だ。彼は御坂康祐…言う通りお父さんの親友であり、世界の調停人でもある」 世界の調停人とは御伽草子のような。 分からない、そんな想像の及ばぬ人間に接触して自分の役割など尚更。 「恐らく君には甘いよ、この男は。だから話をして揺さぶりをかけて欲しい、目に見える成果がなくてもいい、君が会うことが重要だ」 揺さぶるなど、可能だろうか。駆け引きなんて習った例がない、他人を脅せる迫力もない。 貧弱な心に大層な期待を負わされ、パトリシアの血流が益々速くなる。 「なんせ君はそっくりだ、その目も髪色も。思い出さざるを…」 「セフィロス様」 動揺しながらも、少女は父親の話を敏感に遮った。 黙るCEOと視線は合わせられず、それだけ伸びた指が机上の写真を指し示す。 「あの、写真…もっと最近のものは無いですか」 「最近のものだよ。まあ2年は前だが、彼が日本に居た頃の写真だ」 「え?でも…これじゃあ、ちっとも…」 首を振る動作で追及を止める。 セフィロスは写真を仕舞うと、妙に満足げに相好を崩していた。 「それだよパトリシア。まさにそれが、我々の求める無二のブラックボックスなのだよ」 『本部長に伝言を、“馬鹿げてる”』 「私もそう言った」 部下が飛び退くのも気にせず、廊下を競歩の如きスピードで過ぎる。 第3会議室へ急ぐサイファは、インカム越しにマチェーテと応酬を続けていた。 『――何時からだよ、俺も出るぞ。銃口は多い方がいい』 「未だ日本じゃないのか」 『直ぐ飛行機で帰って、もう空港だ。チャーターに乗ってあと30分で着く』

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