138 / 248

chapter.5-10

「チャーターなら直接現地へ向かえ、場所は此処じゃない」 物置と化した私室へ突っ込むや、サイファは乱暴に武器庫の解錠に掛かる。 脚で蹴り開けた中には、非常時の相棒であるナイツSR25が彼女の指示を待っていた。 『?本部じゃないのか?何処で会う気だ』 「空港近くのヘリポートだ、また部下に危害が及ぶのを恐れて…存外に臆病らしいからな」 『臆病?誰が』 「彼が自分で言ったんだ。そして私は思うが、あの人は時折足元がお留守だ」 このナイツという武器は、サイファにとって特段に愛おしい。 前時代的なボルトアクションを嫌った昔、彼が手ずから自分に構えさせ、600M先の撃ち方を教えた。 二脚の無い戦場でも当たる、一発目を外してもオートで直ぐ次が撃てる。これ以上は、何も望まない。 「無限の可能性を持つ未来と、安寧の保証された過去。お前はどちらを欲する?」 『俺は今しか生きてない』 「…そうだともラザル、それで良いんだよ我々は!銃を撃てるのは現在だけだからな!」 不意に本名を呼ばれたマチェーテが鼻を鳴らした。 後と前を見るのは上司の仕事、今を護るのは此方の仕事。 今ありきの人生なのか、過去と未来ありきの人生なのか。我々はいつも役割を分けることで、そのどうでもいい葛藤を捨て去っている。 何を考えているのか分からないが、先ほど司令官はトワイライト・ポータルの面会要求を2つ返事で了承した。 そうしてサイファらに一言報告した程度で、自分は早々現地へ向かってしまったらしかった。 地上30階建ての屋上は何の遮蔽物もなく、高層特有の暴風に晒されている。 車を階下に待たせ、何の部下も連れず、屋上に突っ立つ御坂は先のCEOとの電話を反芻していた。 『――私の部下と面会して欲しい、御坂。場所はヘリで向かえるなら、指定の範囲で構わない』 政府主導のテレワーク推進週間でもあり、普段栄えたオフィス街の人影は疎らで閑散としている。 雲は暴風にざらざらと流れ、次第にその隙間へ黒い点が湧き、大きさを増した。

ともだちにシェアしよう!