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chapter.5-11

『君に伝えておくよ、こちらには人質が居る…神崎遥の捕縛は邪魔されたが、それ相応の人物だ。宗教の教祖様にも、君への脅しにも足りる人間、がね』 今から君に会いに行くよ。 やがて爆音を伴い、接近する小型ヘリへ御坂は相対する。 空中で暫しホバリングしたのち、周囲の塵を巻き散らしてゆっくりと屋上へ脚を着く。 ――パトリシア・ディーフェンベーカー、バートの娘だ。 勝ち誇ったような台詞を最後に、CEOのセフィロスは電話を断ち切った。 そうして宣言通り、スライドした扉の内部からは、栗色の髪を靡かせる少女が降り立った。 眉を顰め、酷く緊張した面持ちながらも確固たる足取り。 風に混ぜられる髪から覗いた、殆ど色素のない硝子の目は。 (実子か) 御坂ともあろう人間が、鑑定結果もなく断定に至った。 それほどに似ていた、未だ10代であろう少女は距離を取り、硬い口元からどうにか挨拶を捻り出していた。 「…こんにちはMr.…私がパトリシア」 背後からはスキッドを蹴り、護衛であろう数人が続いてくる。 そうしてヘリのエンジンが止まり、先ほどの嵐が嘘のように現場は静まり返っていた。 「今日は…貴方に聞きたいことがあって来たの」 「いいよ別に、答えられる事なら」 一寸、初めて口を開いた御坂に少女がたじろいだ。黒い外套を靡かせる男の、表情と声が余りにも穏やかで。 「あ、…そう。じゃあ単刀直入に聞くけど、この写真覚えてる?」 覚束ない手つきで鞄を探り、古い封筒から一枚のポラロイドを引っ張り出す。 掲げて見せた写真には、大学に居た頃の御坂と撮影者の指が映り込んでいた。 「随分懐かしいね、覚えてるよ…お父さんが送ってきたの?」 「そうよ、母親宛の手紙でね。撮影したのは20年近く前になるけど、可笑しいと思わない?」 必死にヘリの中で纏めた草稿を広げつつ、パトリシアは改めて目の当たりにした違和感に震えた。 相対する男と写真は雰囲気からすべて、肌も、目元も何処を取り上げようが何一つ。

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