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chapter.5-12

「…どうして見た目が変わらないの?20年近くずっと」 緊張と、畏怖と綯交ぜの笑みで、パトリシアの表情が歪む。 実に人間らしい反応を目に、御坂はただ黙って相手の二の句を待っていた。 「なんてね、知ってるわ。違う伝手から聞いたけど…貴方の胸には、パパとの研究成果が埋まってるってね」 『箱舟』の作戦名をTPは知っていた。 だからこの存在がバレている事情も、御坂は把握していた。 恐らくそれを餌にTPは武装勢力を釣り、そして周辺国の政界も、過剰な甘言を盛りに盛って。 「貴方は殺人ウイルスって吹聴してるみたいだけど、その逆だって。貴方の胸にあるのは、人間を不老不死にする技術だって」 段々馴れが生まれ、饒舌になる少女を遠い目で見る。 父親だって誰だって、彼女を此処まで巻き込むのは本意でなかった筈だ。あのCEO以外。 「私たちはその技術について、貴方と取引したいの…犠牲の無い、平和な方法で」 「不老不死の生物なんて存在しないよ」 沈黙していた御坂に口を挟まれ、パトリシアは滑りかけていた続きを呑んだ。 「死なない物は、生きていないのと同じだからね」 「…矛盾してるって言いたいの?」 「君が頭を撃てば死ぬ、此処から落ちても同様」 ビー玉のような両目へ相手を映し、発言を慮る。少女は知識は少ないながら考え、言わんとするところを探ろうとする。 「寿命は数百年、此処にあるのはナノマシンの中央制御装置。君の言う通り、僕とお父さんが大学で開発研究していた技術だ。君の会社が考えるほど万能でないし、万能にはしたくないけどね」 入り口は此方が広げた。しかし余りにあっさり肯定を吐く御坂へ、訪問者らは気圧されて立ち尽くす。 ただ確かに、推測に駄目を押されただけなのだ。 その中央制御装置とやらの図面を貰わなければ、トワイライト・ポータルは何の収穫もないに等しかった。

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