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chapter.5-13

「それでは…続きのレポートも聞いて貰えませんか、御坂」 膠着する屋上、次に口火を切ったのは背後の社員だった。 彼はCEOよりも幾分恐縮し、それでも無遠慮に追及を並べ始める。 「貴方は制御装置を付けた後、日本へ渡って国連の監視下に身を置いた。替え玉や手術もなく年を取らない、貴方の研究成果を客観的に示す為に」 「まあ…そうかもね」 「貴方自身が唯一の研究成果であり、研究者であり、各国の重鎮が貴方を欲した。そして貴方は新設した機関の下、『箱舟』なる計画を始動した」 其処まで話が渡っているということは、加盟国がいくつか懐柔されて漏らしたのだろう。矢張り連中には、今回の解決を期待できそうもない。 「『箱舟』たる名前…貴方は人類を選定するつもりですか」 隣で黙っていた少女が凍る。この閉鎖された屋上、話している内容、余りに。 「未曽有の災厄が起き、貴方の制御装置を与えられた者だけが生き残る…その災厄は貴方が起こすのですか?神にでもなったつもりですか?」 パトリシアはただ、単に父親の親友であった筈の男を見た。 確かに目は鋭く心の芯を抉りながら、貰う印象は冷酷というほどでも無い、人間。 「私が元凶なら、殺せばいいんじゃない?」 何処か窘めるように笑う。相貌は年若いにも関わらず、親のような気配へ少女は顔を上げた。 「金を積んで縋っているということは、その災厄が避けられないからだよ。例えば疫病が蔓延したり、核戦争で地球中の大気が汚染されたりね」 「…そ、れを…貴方の制御装置があれば、生き残れるの?」 遮ったのはパトリシアだ。社員は青褪め、懸命に口を出さぬよう頭を振った。 「可能性は高まるよ」 「数に限りがあるの?だから取り合いになるとか」 「体制が整えば量産出来るんじゃない?」 少女の(いとけな)い声へ律儀に答える。 呆然と見守る社員の手前、パトリシアは明け透けに湧いた疑問をぶつけていた。

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