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chapter.5-14
「じゃあ別に私たち争う必要なくない?」
一つのパイを取り合っている訳ではない。
子供として当然の疑問を呈するパトリシアへ、付きの社員が両目を剥いた。
「ば…黙ってろ!お前は何も分かってな…!」
「…ふっ、ふふ」
その一方で、耐え切れず腰を折る。困惑する外野を他所に、箱舟を持つ男は突然可笑しそうに笑声を漏らしていた。
「ほんと、お父さんにそっくりだね」
少女は向けられた興味へたじろいだ。なにせ知り得た父の存在とは、ただ少ない手紙の文面だとか、他人からの賛辞だとかその程度のコンポーネントに過ぎず。
「そ、そう…かしら」
「余り嬉しくないだろうけど、当人と話してる気分かな」
甘いかは兎も角、色々引っ掛かる部分はあるのだろう。眉を顰めて笑う相手が一寸空を仰ぎ、少女は妙なむず痒さを覚える。
そっくりだ。今の言葉の意図を、少し聞いてみたい気もしたが。
「――…そう、ですね本部長…確かに彼女の言う通り、我々も争いなど望んでおりませんよ」
タイムアウトも近かったのだろう。社員が遮るように話を引き戻し、鞄から取り出した何かを放る。
掴んだ物は仕掛けもない、シンプルな量産品のUSBだった。
「我々と制御装置の研究開発で提携して下さい、本部長。中の約款を是非ご覧の上、また連絡を」
語尾へ被さる様にヘリが目を覚まし、喧しくプロペラがノイズを吐き出す。
再び動き出した一帯が音を増し、後ろ髪を引かれながらも、少女は場を去ろうと背を向けていた。
「悪い話ではない筈です!我々は貴方に健康な被験者や土地を齎し…世界は平和に、人は平等に高度な医療を手にする…どうぞご英断をーー!」
『――サー、連中が去ります!何故我々に指示を出さないのです!』
光景を対岸のビルから正視していた。
サイファはナイツのスコープへ齧り付いたまま、何も手信号を寄越さない上司へ吠えていた。
『パトリシア・ディーフェンベーカーを保護すべきです!この機会を逃す手はない、我々に狙撃許可を出して下さい!!』
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