142 / 248

chapter.5-14

「じゃあ別に私たち争う必要なくない?」 一つのパイを取り合っている訳ではない。 子供として当然の疑問を呈するパトリシアへ、付きの社員が両目を剥いた。 「ば…黙ってろ!お前は何も分かってな…!」 「…ふっ、ふふ」 その一方で、耐え切れず腰を折る。困惑する外野を他所に、箱舟を持つ男は突然可笑しそうに笑声を漏らしていた。 「ほんと、お父さんにそっくりだね」 少女は向けられた興味へたじろいだ。なにせ知り得た父の存在とは、ただ少ない手紙の文面だとか、他人からの賛辞だとかその程度のコンポーネントに過ぎず。 「そ、そう…かしら」 「余り嬉しくないだろうけど、当人と話してる気分かな」 甘いかは兎も角、色々引っ掛かる部分はあるのだろう。眉を顰めて笑う相手が一寸空を仰ぎ、少女は妙なむず痒さを覚える。 そっくりだ。今の言葉の意図を、少し聞いてみたい気もしたが。 「――…そう、ですね本部長…確かに彼女の言う通り、我々も争いなど望んでおりませんよ」 タイムアウトも近かったのだろう。社員が遮るように話を引き戻し、鞄から取り出した何かを放る。 掴んだ物は仕掛けもない、シンプルな量産品のUSBだった。 「我々と制御装置の研究開発で提携して下さい、本部長。中の約款を是非ご覧の上、また連絡を」 語尾へ被さる様にヘリが目を覚まし、喧しくプロペラがノイズを吐き出す。 再び動き出した一帯が音を増し、後ろ髪を引かれながらも、少女は場を去ろうと背を向けていた。 「悪い話ではない筈です!我々は貴方に健康な被験者や土地を齎し…世界は平和に、人は平等に高度な医療を手にする…どうぞご英断をーー!」 『――サー、連中が去ります!何故我々に指示を出さないのです!』 光景を対岸のビルから正視していた。 サイファはナイツのスコープへ齧り付いたまま、何も手信号を寄越さない上司へ吠えていた。 『パトリシア・ディーフェンベーカーを保護すべきです!この機会を逃す手はない、我々に狙撃許可を出して下さい!!』

ともだちにシェアしよう!