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chapter.5-15

スキッドに脚を掛ける手前、パトリシアが挨拶を迷って振り向いた。 御坂は相好を崩し、騒がしい羽音の向こうへと声を張る。 「明日の夜、テレビをつけてごらん」 当然、彼女を誘導していた社員も怪訝な顔をした。 アラビア語放送は退屈なニュース衛生チャンネルばかりで、好き好んで付けた事も無かったが。 「面白い番組がやってるから」 去り際にわざわざそんなレコメンドをされ、パトリシアは曖昧な顔で頷く。 その左手には覚えのある武骨な時計が嵌っており、御坂は結局手信号を出す事も無くヘリを見送っていた。 『ーーサーー!!遅い!遅過ぎます!!』 漸く光り続ける携帯に応答すれば、噛み付くような副官の声が罵る。 防火扉を開き、階下へ向かう御坂は喧しさにモノを遠ざけた。 『貴方の足枷になるであろう彼女を保護すべきでした、人質に利用されますよ!』 「もうされた」 『…された?何…じゃあ会合自体、脅されて応じたんですか?』 ボルテージの下がりつつある相手へ、上司は少女の腕に着けられた脅し(フィッピーランドの時計)を釈明する。 要は彼女は毒針の仕込まれた時計をプレゼントされ、CEOがスイッチを押せばいつでも殺せる状態にあったと、そういう事らしかった。 『はあ…まあ…言い難いクソ男だということは良く分かりました。それから直ぐ情に流される、貴方の立場が悪くなったという事もね』 「今度会ったら股間の使わんものを切ってやるか」 『序にシフォンスカートでも贈れば結構ですがサー、貴方は人が良すぎます。パトリシア・ディーフェンベーカーは単に貴方様の親友と血縁関係にあるだけで、テロリストの一味ですよ』 まったく、その点に関しては仰る通り。 俗世から浮いたようで割りに人間臭い上司は、階段を下りるや待たせていた車の運転手にまで単独行動を叱られた。

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