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chapter.5-16
『会わなければ良かったんです…会っては尚更情が移る、あの朴念仁の策略通り』
「案ずるな、奴は彼女を殺せない」
何か既に、布石は打ってある様だ。
雨が嫌いだなどと弱音を吐くので心配していたが、通常運転の上司を認めサイファは話題を次へ流した。
『…ところでサー、伝え損ねていましたが未だ問題が』
「ん?」
『戦場になる前にMr.本郷へ帰国を促したのですが、帰りたくないと拒否されまして』
「何で」
サイファとて、解せぬ様相で沈黙をつくる。
あんな一面黄土色の娯楽もない場所、2人なら頼まれても居座りたくは無かったが。
『…”木曜と金曜が休みだから”だそうです』
「…何て?」
『週休2日なんて日本にも沢山あると言えば、嘘を吐くなと電話を切られました』
理解出来ない思考回路に固まる2人は、しかしふと似たようなケースを思い出した。
以前、新興宗教にズブズブになった男が同じ様にイカれた常識を植え付けられ、現実世界とのズレから帰れなくなってしまった。優しさ故の痛ましい事例を。
「まあ…遥にあれだね、そろそろ厚生省の監査入れないと駄目だね」
貴方が甘やかした所為では?
膠も無くサイファは寄越したが、上司は断じて自分の仕業ではないと明後日を向いた。
『お疲れ様、パトリシア。久しぶりの大都会で少し羽を伸ばしておいで』
携帯に届いた労いを読み、少女は脱力した肩をベンチへ預ける。
もう搭乗手続きは済ませたが、確かに街を散策できる程の時間が余っていた。
自分の成果はともかく、任務は完遂した。
お守の社員とも別れ、1人空港のロビーで蹲るパトリシアは、先のことは放り一先ずの解放感へ息を吐く。
「羽を伸ばす…ね」
父がアメリカ人だからと言って、少女はこんな大国のターミナル・シティーへ馴染みがある訳でもない。
年相応にトレンドも、楽しむ術も知らず、ただ確かに非日常へ魅かれる気持ちの儘に、いつしか騒がしい街へと足を踏み出していた。
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