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chapter.5-17

あと2時間は猶予があるが、流石にHop-On-Hop-Off(観光バス)を乗り継いでダウンタウンへ出る気にもなれない。 ロスの国際空港内にはセレクトショップやブランド免税店が立ち並び、女1人でも歩き回れば潰せそうな具合だった。 (なんか、全然不釣合いな気はするけど) 使いもしない化粧品店に入ろうとして、パトリシアは自動ドアに映る自分の姿に脚を留めた。 強い日差しに傷んだタンクトップとホットパンツ。 ヒールの無いサンダルは擦り切れ、配色は至って子ども染みている。 「――Blissのローション買って自慢すんの!学校で!」 「えー、じゃあチアでお揃にしようよ」 背後から賑やかな一行が追い抜き、気圧されて益々脚が立ち退いた。 格好からして恐らく同い年くらいの女子高生。 髪から靴まで御伽草子から飛び出たように煌びやかで、嘘みたいに甘酸っぱいパルファムが香った。 「お揃にするならBead Factoryでしょ」 ひっきりなしに笑声の漏れる空間が信じ難い。砂の街からは遠く、余りにも色鮮やかで。 (たのし、そう) いっそ声を掛けて、「Bead Factoryってなあに」なんて軽々しく問うてみたかった。 遠地から来た観光客を装って、一時なれど明日着る服や靴の話へ興じて。 (どうせ着られないけど) 今日にはもう戻る。このユートピアを楽しく過ごすほど、恐らく明日には虚しくなる。 そう行き着けば買い物も出来ず佇んでいた。 矢先抱える鞄で携帯が震え、引き戻された少女は慌てて着信元も見ず応答していた。 「はっ、はい…!!」 『――…あっ!…お前、何処…今何処に居る?』 「えって…何、…は?」 ショルダーバッグがずり落ちる。 そのまま地面に転がったのも拾えぬまま、パトリシアは想定外の発信者に眉を寄せていた。

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