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chapter.5-18

「何なの?今何処って…アメリカだけど」 『それは知ってる、もう空港着いたか?住所は?』 「もう着いたけど…1階で化粧品とか、お土産見て…」 つい馬鹿正直に答えてしまったが、現在地を聞いて何だと言うのか。 益々訝し気なパトリシアを放ったらかし、やや急いた口調の男は尚も居場所を詰めてきた。 『1階?1階って言ったって広…――あっ』 直後、途切れる。 何事かと黙る少女の目前、スーツの見知った男が立ち止まり視線を合わせていた。 平日なれど多くの観光客が過ぎ去るターミナル、立ち尽くすパトリシアは訳も分からず唇を噛む。 当然のように現れた姿は素性も知らない。つい最近他人の境界線を越えたばかりの存在にも関わらず、深い安堵が目の奥へ込み上げて。 「俺見つけるの早くない?」 「…知らないし、何で居んのよ」 つい無下に突き放そうが、相手は常みたく勝手にATフィールドを潜っては覗き込む。 「泣くなよ」 デリカシーがあるのか無いのか。 気恥ずかしさに負けた少女は、思わず遠ざけたい一心でまた頬を張っていた。 「――いってえ!」 「何で居るかって聞いてんのよ!!まさか追い掛けて来たとか言わないでよね!」 「1人で心配だろ!」 「1人じゃないわよ…何人か社員の人と…」 「今は?」 今は、単に帰りまで一緒の必要性も無く別れただけだ。 一緒の必要性もなく。 その表現を引き当て、結局男の言う通りなのを思い知らされる。 言い淀んだ少女は、話題を転がそうと口を開きかけた。 しかし、ロウ、なんて不思議な渾名を付けられるから、本名を忘れてしまった。 「…あの、ところで名前なんだっけ」 「え、俺?」 頷けば相手は一寸空を仰ぎ、奇妙な間を経て帰って来る。 「義世」 微かながら、記憶とまるで違うニュアンスに口籠る。 「本郷義世、会社で呼ぶなよ」 いけしゃあしゃあと続ける顔が解せず、パトリシアはつい率直に指摘した。 「…偽名じゃん」 「いいんだよ今そんな事は、久し振りのロサンゼルスを楽しもうぜ」 「楽しもうぜって…何勝手について来てんの?私行きたいのそっちじゃないし…ねえ本当何しに来たのよ!」

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