147 / 248
chapter.5-19
1年を通じて20度前後をキープする天使の街は、歩き出した2人の観光客を穏やかに受け入れた。
流石にバスを乗り継ぐ余裕はなくとも、空港前の散策は十分に目を楽しませ、ほんの僅か砂漠の色味を忘れさせる。
アイススタンドでダブルをカップに貰った2人は、巨大な米国慰問協会の建物を眺めながら沿道へ腰を降ろした。
円形で先進的なデザイン。その頭上には、如何にもこの国らしいペンキ塗りのような青空が広がっている。
「あーあ、ユニオンステーションからロングビーチでも行きたかったな」
「…遊びに来た訳じゃないんだけど」
「じゃあ次の機会な」
子どものような事を言う年上は笑い、やたら甘ったるそうなジェラートを口に運ぶ。
因みにパトリシアはストロベリーとバニラにした。正直に言って甘いものは得意でないが、今の気分にはお似合いだ。
「美味しい」
「苺?良かったじゃん」
「高いデザートなんて久し振りに食べたから…一口いる?」
急に胸襟を開いてスプーンを差し出すものだから、本郷の方がやや驚いた様相で口に含む。
通行人からすれば、仲睦まじく分け合う姿はカップルに見えた。ただ、蓋を開ければお互い物騒な隠し事を抱えていると言うのに。
「スリーツインズほんと美味しいよな、俺生まれ変わったらアイスクリームになるわ」
「何言ってんの?」
「…その俺を突き放す感じ、やっぱ遥に似て…」
あからさまに言葉を止めた。
見返す少女は瞬きを繰り返し、端から意味も分からず留まっている。
いや、別に気まずい事を零した訳でもないのだ。
尚且つ少女にとって今知るべき事のような気がして、本郷はスプーンを咥えたまま後ろ手に携帯を探っていた。
「ほら」
「何?…誰、」
ディスプレイを覗き込んだパトリシアが口を閉ざす。そうだろう、彼女にとっても、恐らく自分と父親以外で初めて見た目の色だから。
「兄貴、お前の」
黙って、反応に困るのも当然だった。
何故目前の男が知っているのか、自分の事も知っていたのか、一瞬で洪水のように疑問が押し寄せてきて。
ともだちにシェアしよう!