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chapter.5-19

1年を通じて20度前後をキープする天使の街は、歩き出した2人の観光客を穏やかに受け入れた。 流石にバスを乗り継ぐ余裕はなくとも、空港前の散策は十分に目を楽しませ、ほんの僅か砂漠の色味を忘れさせる。 アイススタンドでダブルをカップに貰った2人は、巨大な米国慰問協会の建物を眺めながら沿道へ腰を降ろした。 円形で先進的なデザイン。その頭上には、如何にもこの国らしいペンキ塗りのような青空が広がっている。 「あーあ、ユニオンステーションからロングビーチでも行きたかったな」 「…遊びに来た訳じゃないんだけど」 「じゃあ次の機会な」 子どものような事を言う年上は笑い、やたら甘ったるそうなジェラートを口に運ぶ。 因みにパトリシアはストロベリーとバニラにした。正直に言って甘いものは得意でないが、今の気分にはお似合いだ。 「美味しい」 「苺?良かったじゃん」 「高いデザートなんて久し振りに食べたから…一口いる?」 急に胸襟を開いてスプーンを差し出すものだから、本郷の方がやや驚いた様相で口に含む。 通行人からすれば、仲睦まじく分け合う姿はカップルに見えた。ただ、蓋を開ければお互い物騒な隠し事を抱えていると言うのに。 「スリーツインズほんと美味しいよな、俺生まれ変わったらアイスクリームになるわ」 「何言ってんの?」 「…その俺を突き放す感じ、やっぱ遥に似て…」 あからさまに言葉を止めた。 見返す少女は瞬きを繰り返し、端から意味も分からず留まっている。 いや、別に気まずい事を零した訳でもないのだ。 尚且つ少女にとって今知るべき事のような気がして、本郷はスプーンを咥えたまま後ろ手に携帯を探っていた。 「ほら」 「何?…誰、」 ディスプレイを覗き込んだパトリシアが口を閉ざす。そうだろう、彼女にとっても、恐らく自分と父親以外で初めて見た目の色だから。 「兄貴、お前の」 黙って、反応に困るのも当然だった。 何故目前の男が知っているのか、自分の事も知っていたのか、一瞬で洪水のように疑問が押し寄せてきて。

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