148 / 248
chapter.5-20
「…あなた誰?何でそんな事知ってるの?」
急に敵愾心を孕むものだから、本郷の側が身構えてしまった。
危ぶまれるまでは想定していたが、流石に戦争を身近に生きていただけの防御がある。
「いや…まあ俺の共同経営者で」
「私の事も知ってたの?」
「知らない。会ったのはまったくの偶然だし、妹が居たなんて初耳だった」
じっと兄と同じ目に正視される居心地の悪さ。
気付かぬ内に手中のカップを握り潰した頃、パトリシアは嘆息して視線を観光地の景色へ戻していた。
「…だから初対面であんなガン見してたの?あーそう…私お兄ちゃんなんて居たんだね」
気候にしては珍しい湿った風が吹き、長い髪がいくつか無造作に攫われる。
合間から覗いた表情は険がとれ、彼女の瞳のように無味な色をしていた。
「それだけ…?」
「それだけって…別に血が繋がってるだけで、他人以上に思うのおかしくない?」
家族だから、同じ血を分けたから。
子どもの側からすれば、それで勝手な思慕を強要されるなど御免だろう。
増して顔も見たことない、ただ自分の力頼みで、独り歩いてきた彼女にとっては。
「どうでもいいよ、その人もパパも。話す事もないしね」
「あー…そう、じゃあ俺は?」
きょとん、とあからさまに動作が止まった。
パトリシアは質問の方向転換へ、雀のように首を傾げていた。
「他人以上にはなった?」
「まあ…アイス奢ってもらったし」
「現金な奴だな、友達くらい言えよ」
一回り以上の差も忘れる程、相手は少年のようにむっとした表情で立ち上がる。
そしてパトリシアの腕を引っ張り上げ、勝手にBob Hopeの施設を後に歩き出していた。
「なに?今度は何処いくのよ?」
「買い物」
「お土産ならもう買ったじゃん、みんなにシーズキャンディ」
「そうじゃなくてお前の」
変な男だ。眉を寄せた。
自分の所感がいつか見た映画の様で、少女は妙なむず痒さを覚えた。
ともだちにシェアしよう!