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chapter.5-20

「…あなた誰?何でそんな事知ってるの?」 急に敵愾心を孕むものだから、本郷の側が身構えてしまった。 危ぶまれるまでは想定していたが、流石に戦争を身近に生きていただけの防御がある。 「いや…まあ俺の共同経営者で」 「私の事も知ってたの?」 「知らない。会ったのはまったくの偶然だし、妹が居たなんて初耳だった」 じっと兄と同じ目に正視される居心地の悪さ。 気付かぬ内に手中のカップを握り潰した頃、パトリシアは嘆息して視線を観光地の景色へ戻していた。 「…だから初対面であんなガン見してたの?あーそう…私お兄ちゃんなんて居たんだね」 気候にしては珍しい湿った風が吹き、長い髪がいくつか無造作に攫われる。 合間から覗いた表情は険がとれ、彼女の瞳のように無味な色をしていた。 「それだけ…?」 「それだけって…別に血が繋がってるだけで、他人以上に思うのおかしくない?」 家族だから、同じ血を分けたから。 子どもの側からすれば、それで勝手な思慕を強要されるなど御免だろう。 増して顔も見たことない、ただ自分の力頼みで、独り歩いてきた彼女にとっては。 「どうでもいいよ、その人もパパも。話す事もないしね」 「あー…そう、じゃあ俺は?」 きょとん、とあからさまに動作が止まった。 パトリシアは質問の方向転換へ、雀のように首を傾げていた。 「他人以上にはなった?」 「まあ…アイス奢ってもらったし」 「現金な奴だな、友達くらい言えよ」 一回り以上の差も忘れる程、相手は少年のようにむっとした表情で立ち上がる。 そしてパトリシアの腕を引っ張り上げ、勝手にBob Hopeの施設を後に歩き出していた。 「なに?今度は何処いくのよ?」 「買い物」 「お土産ならもう買ったじゃん、みんなにシーズキャンディ」 「そうじゃなくてお前の」 変な男だ。眉を寄せた。 自分の所感がいつか見た映画の様で、少女は妙なむず痒さを覚えた。

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