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chapter.5-21
Tom Bradley InternationalTerminal。
自分が生涯踏み入れる事は無かったであろう、ハリウッドならではの高級店が立ち並ぶアーティファクト。
よく見れば良いスーツを着ている男の隣だろうが、擦り切れたサンダルの子供などお呼びでない。
パトリシアは辟易し、吹き出す甘ったるい匂いに2、3くしゃみを繰り返す。
「…ちょっと、さあ」
これは無い。
お帰りお嬢ちゃん、とでも言いたげな警備の視線が痛い。
しかし少女の歩き方を指導した時もそう、妙にこういった時…否、いつも堂々とした男の態度が、年不相応にきらめかない心を引きずるのだ。
「靴買おうぜ」
「買えないし…浮くわよ」
漸くパトリシアを振り向き、意図を察した男が付け加える。
「じゃあ全部」
接続詞の使い方が間違っていた。
更に目を剥く相手も意に介さず、本郷はDFS Duty Free Boutiqueのさらに目の痛い一角へ侵入して行った。
「人の話聞かないって言われない?」
「…言われた事ねえよそんなの」
秒で言い返す男が、如何にも心外そうに色素の薄い少女をまじまじと見る。
「お前の兄貴には毎日言ってたけど」
知る由もない文句を言われ、いよいよつっけんどんに明後日を見た少女は、しかし追従するまま迷い込んだブティックの看板を見上げ絶句した。
何ら雑誌を捲ることが無くとも、老若男女知るハイブランド。
馬具を象ったロゴを潜れば、夏の近い気候も相俟り、別乾坤に思える色彩が犇めいている。
「――こんにちはMr.、Ms.」
ほうら、上品なアテンドスタッフが一寸言葉を止めた。
ただそれは、お隣のアジア人に見惚れての事かもしれないが。
「こんにちは、一件お願いがありまして」
「まあ、どういった」
「この子を世界一可愛くして下さい」
どうやったら真顔でそんな台詞を吐ける。
異邦人を見るような少女の目も厭わず、何やら両者は社交場の様に小洒落た談笑を続けていた。
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