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chapter.5-22

「あら素敵、私どもはそういうロマンティックなお願いは大好きですよ」 「流石…ただ、ガラスじゃない靴を是非」 「勿論です、ずっと覚めない魔法にしないとね」 仕事をこなす美しい店員の顔がこちらを向き、パトリシアは居心地悪く指先を弄ぶ。 ただ青い目の底深さは母親を覚え、幼気な視線を吸い寄せていた。 「パトリシアちゃん、俺は電話で席を外してもよろしいですか」 「…いいけど何その言い方」 「ふふ、じゃあお嬢様はこちらへ」 促され先に踏み出す脚すら惑う、少女が此処まで気後れするのは訳があった。 値札の無いショーウィンドウを見ながら、何時ぞや聞いた女性社員らの雑談が蘇ったのだ。 ハイブランドの店員は客を選ぶ。 相応しくないと判断すれば、露骨に口数が減る。 最近は外商顧客も減っている癖に。お高くとまって。 そんな恐ろしい非難と自分の姿を鑑み、パトリシアは遂に白い手袋の店員へ追い縋る。 「あ、あの…!すみません、私あの…そんなに持ち合わせが」 「…勘違いかしら、彼方の紳士が貴女に贈り物をするのかと」 「でもこんな、高価過ぎます」 「そんな暗い顔しないで。お連れ様の身につけてらっしゃる物だけで、このお店が丸ごと買えてしまうわ」 床に下がっていた視線がひゅっと上向いた。 高そうだ、良いものだろうとは思っていたが。この店丸ごと、等ととても信じられなかった。 「ねえMs.パトリシア、貴方…とっても綺麗な瞳の色ね。私もこの仕事長く居ますけれど、そんな綺麗な色宝石だって見た事ないのよ」 今度は少女を真っ直ぐ見詰め、そんな甘言をくれる。それが顧客を繋ぎとめる作為だろうが、パトリシアは初めての賛辞へ頬を染めた。 「それにすらっとした手足、均整が取れてて健康そうで、此処のコレクションが何だって似合いそう」 「そう…でしょうか…?」 「大丈夫、良い靴を履けば自然に背筋が伸びますから」

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