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chapter.5-26
「…結婚って幸せ?」
人生に確約はない。が、確かにひとつのチェックポイントとして目指す人は数多、ゴールの達成感たるや絶頂に思える。
少女の率直な問いへ、いつの間にか本郷の側が記憶に沈み、歩きながらも思い耽る。
あの時、自分と神崎に送られてきたのは一通の簡素なハガキだった。
結婚を当事者間で済ませてしまった2人は、鮮やかな写真の下へ、業務連絡みたいな報告を添えて社内外へ届けたのみだった。
時期を図ったのか、日本では梅雨の湿気が纏わりつく6月。
封筒に包まれたポストカードを出せば、見たこともない表情をした戸和が礼装で佇み、隣には当たり前にウェディングドレスを着せられてしまった萱島が、心底恥ずかしそうに、けれど真っ直ぐ正面を向いて立っていた。
親の心境だったのか失意だったのか。その覚悟を決めた美しさを目に、ついと涙が零れたのを覚えている。
彼は男の子だけれども、どんな女性よりも純白のベールが似合っていたし、きっとヴァージンロードを歩けば誰もが見惚れるさまが思い浮かんだ。
ただ、2人は挙式を見せはしなかった。
すべて青年の独占欲なら微笑ましいが、本郷はその点妙な不安を抱いてしまった。
余りに完成された一枠の写真、まるでピリオドが打たれた様に、2人のこれまでの大変な道程を称えるのみで、続きの絵が出てこない。
大層、失礼な話ではある。
喜ばしい祝い事へ勝手に杞憂し、心の中で水を差す。
恐らく背後に映っていた教会では、指輪を交わし、あの荘厳な誓いの言葉も済ませたに違いないのに。
”――I,Seto Isumi,take you,Kayashima Sana,to be my lawfully wedded wife…”
(私、瀬戸和泉は、萱島沙南を法的に婚姻した妻とし、)
邪悪の無い白い一帯で。
新しい世界を始めるのに、2人生真面目な顔で前を見据え、静かに心の中で道中を顧みる。
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