153 / 248
chapter.5-25
「今の人見えた?めちゃ格好よかったんだけど」
「見えた!やばかったぁ」
振り向けば先ほどの女子高生らが擦れ違い、笑声を上げながら遠ざかる。
朧気に見送る先、続いた言葉に少女の背筋が伸びた。
「隣の女の子も超かわいくなかった?」
あんな風になりたい、なんて弾ける声が続き、踏み出す右足が揺らぐ。
一寸前に自分が抱いていた羨望が。
これしきの時間で風向きを変え、パトリシアは面映ゆい熱に頬を押さえる。
全然羨ましくなんてない。
貴女たちの方が違いなく楽しいし、年相応の魅力にたくさん囲まれている。
けれど確かに、今日は。今日この時だけは。着飾られた銀幕の中に等しく自分は。
「…義世」
初めて呼んだら、案の定怪訝な顔が振り向いた。
「何で此処まで気遣ってくれるの?日本人のお節介?」
態々此方の荷物まで携えた男は、階段前で留まり首を捻る。
彼に言わせれば、丁度同い年の娘とつい重ねてしまった故だ。
ただしその話は正直、突かれるのが目に見えているので致したくない。
「君のお兄ちゃんには一応世話になってるというか…」
結局迷って着地を変える、ことの名目へ今度はパトリシアの側が目を剥いた。
「またお兄ちゃんの話!?お兄ちゃんの話ばっかりしてない!?」
「そんなしてないだろ!」
「好きなの…?」
「違うわ!」
階段前でやり合う両者を、空港で喧嘩かと通行人が興味深げに見やる。
やがて少女の純真な興味に耐え難くなり、恨みがましい目を向けながらも、本郷はさっさと搭乗ゲートへ歩き出した。
「好きな人ならちゃんと居ましたよ」
「うそ、どんな人?告白した?」
「してない、もう結婚したしな」
「何それ、辛くないの?」
「今は嬉しい。俺の場合、幸せになって欲しかったから」
淡々と情報が落とされる割に、パトリシアは一つも納得がいかない。
なんなら同じ片恋同士だと膨らむ話もあったのに、此方はもう完結してしまったらしかった。
ともだちにシェアしよう!