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chapter.5-25

「今の人見えた?めちゃ格好よかったんだけど」 「見えた!やばかったぁ」 振り向けば先ほどの女子高生らが擦れ違い、笑声を上げながら遠ざかる。 朧気に見送る先、続いた言葉に少女の背筋が伸びた。 「隣の女の子も超かわいくなかった?」 あんな風になりたい、なんて弾ける声が続き、踏み出す右足が揺らぐ。 一寸前に自分が抱いていた羨望が。 これしきの時間で風向きを変え、パトリシアは面映ゆい熱に頬を押さえる。 全然羨ましくなんてない。 貴女たちの方が違いなく楽しいし、年相応の魅力にたくさん囲まれている。 けれど確かに、今日は。今日この時だけは。着飾られた銀幕の中に等しく自分は。 「…義世」 初めて呼んだら、案の定怪訝な顔が振り向いた。 「何で此処まで気遣ってくれるの?日本人のお節介?」 態々此方の荷物まで携えた男は、階段前で留まり首を捻る。 彼に言わせれば、丁度同い年の娘とつい重ねてしまった故だ。 ただしその話は正直、突かれるのが目に見えているので致したくない。 「君のお兄ちゃんには一応世話になってるというか…」 結局迷って着地を変える、ことの名目へ今度はパトリシアの側が目を剥いた。 「またお兄ちゃんの話!?お兄ちゃんの話ばっかりしてない!?」 「そんなしてないだろ!」 「好きなの…?」 「違うわ!」 階段前でやり合う両者を、空港で喧嘩かと通行人が興味深げに見やる。 やがて少女の純真な興味に耐え難くなり、恨みがましい目を向けながらも、本郷はさっさと搭乗ゲートへ歩き出した。 「好きな人ならちゃんと居ましたよ」 「うそ、どんな人?告白した?」 「してない、もう結婚したしな」 「何それ、辛くないの?」 「今は嬉しい。俺の場合、幸せになって欲しかったから」 淡々と情報が落とされる割に、パトリシアは一つも納得がいかない。 なんなら同じ片恋同士だと膨らむ話もあったのに、此方はもう完結してしまったらしかった。

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