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chapter.6-4
議長の趣旨説明を放ったらかし、中央のVIP席は尚も近場でディベートを楽しむ。
その矢先長机の端でマナーモードの携帯が震え、取り上げた最年長はちょっと珍しい顔をしていた。
「おっと」
思わず漏れたという声へ、周囲も小競り合いを中断して目を寄越す。
「諸君朗報ですよ、あのエンペラーが来るそうで」
「…エンペラー、ああ!彼ね!そりゃいいね」
「ほお…最近姿を見ないもんだから、到頭寝首を掻かれたのかと心配してましたよ。なんせ年を食うと半端な娯楽が詰まらなくていかんね」
彼が来ると、途端に面白くなって良い。
狐や狸らが座して待ち望む先、硬く閉ざされていた中央ゲートが前触れなく開け放たれる。
ご到着だ。
SS席は拍手でもしそうに迎えたが、事情を知らぬ周囲は何事かと侵入者を睨め付けた。
『――どちら様です?途中入場はお静かに、あっ、』
入室を咎めた議長が黙る。
霹靂の如く鋭い目が刺し、一帯は蛇に睨まれた蛙の様に竦む。
UNSDH。
黒い外套を靡かせやってくる2つの人影が、まるでメメント・モリ絵画の様だ。
怯える議長は声を発する間も無く、先立って乗り上げたサイファにマイクを奪い取られていた。
「き、君っ!返しなさい…!」
「黙れ、此処の時間を10分買っている」
買っているだと。
一体誰にそんな権限があるのかと見渡せば、VIP席の老紳士らがニヤニヤ此方を観戦しているではないか。
「…正気か?何方を言い包めたかと思えば」
「時間も無いので用件だけ話す。自分で黙るか、手伝いが必要か」
答えかけ、スーツの布越しの感触に気付く。
この女は人に銃口を押し付け、手伝い等とほざく。理解し難い異常性へ絶句し、議長は罵詈雑言を呑んで後退っていた。
『――貴顕紳士諸君、ご無沙汰している。採決に先立ち、報告をひとつ』
突然の登場に反し、甚く淡々とした御坂の挨拶が響いた。
この場に現れるは悪魔か、救世主か。固唾を飲んで見守る会議は、一寸の間で見事に音を吸い取られていた。
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