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chapter.6-6
まったく足音は無かった。
にも関わらず踊り場に差し掛かった瞬間、背後から大理石の床へ引き倒された。
「ぅぐっ…!」
「はじめまして、マチェーテと申します」
四肢の痛みに耐えながらギリギリ首を回せば、見覚えのある赤い髪がちらつく。
UNSDHの、御坂のサーヴァントだ。
連中が会議に来た時から嫌な予感はしていたが、既に手遅れだったと男は脱力した。
「ああ…昔君を見た、大きくなったな。何を聞きに来た」
「世界と御自分の明日を決める大事な会議を抜けて、一体何処へ行こうと言うのです」
「私か、私は少し急用が出来ただけだ」
「トワイライト・ポータルへご連絡ですか?5時間後に空爆が始まると、そう伝えなさるんですね」
握りしめている携帯には連絡先も入っている。
此処で取り繕っても、相手がお見通しなのでは毫も意味がない。
頷く男を見てマチェーテは思案し、身体の上から退いた。
彼は痛めた四肢を庇いつつ、矢張りもう逃げるのを諦めたらしかった。
「…お察しの通り内通者 は私だ。否…私個人で無いのは分かると思うが、この場はそう言う事にしておいてくれないか」
「うちの上司の仕置きを一人で請け負うつもりですか?一体、トワイライト・ポータルからの報酬は何だったんです」
「報酬など無い」
草臥れ切った声が遮った。
唇へ砂漠の砂が纏わりついた気がして、マチェーテは不意に眉を寄せていた。
「利益なんて何も無いよ青年、皆そうだ。誰も彼も過去の尻拭いを続けて、ずっと今までそうやって生きて来た」
「過去の尻拭いとは…」
「寝屋川庵の小隊が殺害された件は、米紙の一片にだって載らなかった。民衆は誰も知らない。当時の米上層部…私の上司がその様に、平和的解決を図って揉み消したからだ」
ああ、そうだろう。
悟ってはいたが、駄目を押された気分で青年の目は天井を向く。
「もう誰も戦争を長引かせたくは無かった。国民感情を煽ってはいけないと、事件は双方の政府合意で闇に葬られた。勿論多額の賠償金は発生し…それからズルズルと、絡んでいた武装勢力や連中とも何の身にもならない関係が続いている」
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