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chapter.6-9
『彼女の血液中には、奇跡的に生来モスル熱抗体が備わっており』
「…ちょっと待って」
大人たちがフラッシュの明かりを演出に、此方のまったく与り知らぬ体内を語っている。
数百、数千万人の命を救った抗体が、この皮膚の下を巡る血液からつくられたと宣う。
(確かに私はその時パパに会っている)
母親の感染を聞きつけ、彼はウイルス研究の為にこの街へやって来た。
自分は1、2歳で記憶もないが、その時、彼は、自分の血液も精査して、その上でアメリカの研究室に持ち帰った?
『バート医師の研究はその特定・量産化のプロセス、つまり』
『パトリシア・ディーフェンベーカー、この少女も何千万という人々の命を救った救世主であると』
いつテレビを消したのか定かでない。
気付けばパトリシアは無音の室内に佇み、じっと焦燥から動けず床目を睨んでいた。
時折夢の中に居るのを、現実と混同する時がある。
手紙を渡せと誰かに嘆願された日に同じ、しかし今日はきっと恐らく覚める事はない、明日もこれからもずっと
「――パトリシア!」
ドアを叩く音に頭を跳ね上げた。
敬愛してやまない少女の上司が呼んでいた。彼は対応に惑うパトリシアを差し置き、珍しく返答も待たずドアを開け放つ。
それはそれは見たことも無い様な、何かが溢れ出さんばかりの笑みで。
「ニュースを見たかい?信じ難いが…君に関するとても名誉な事実が」
「み、見ました」
「…そうか!君は救世主だったんだ…それも預言者の父親よりも素晴らしい、直接ギフトを賜った神の子なんだよ」
これは夢ではない。
セフィロスの顔が幾ら過去に例を見ないほど快活としていても、夢ではない。
「イスラム教は…キリスト教とは違います、神の子なんて存在…」
「君のお父さんに集った新興宗教だ、もっとフレキシブルな考えを持っているさ。ああ…君の下に、皆が参拝に来るかもしれないなパトリシア。私は今、新しい時代の幕開けに立ち会っているのかもしれないよ…いつか君の名前は、教科書にだって…」
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