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chapter.6-13

“自由”とは、中東で武器を手に取る者からいつも聞いた。 その脇で人が死ぬ度、成る程、自由と幸せは同義でないのかと知り、益々その価値が理解出来ず。 「自由なんて…よく分かんないけど、何でこんな突然、私の名前が」 「それは恐らく、御坂の計らいだと思う」 「!…何で?何でその人の名前を知ってるの?」 「俺がアイツの命令でこの会社に来た密偵だから」 少女の瞳が増々透明になり、背広を掴む手が滑り落ちる。 本郷は至って平静に事実を吐いたが、一転苦々しく眉を顰める彼女の反応には鼻白んだ。 「そう…じゃあ、貴方は嘘ついてたんだ」 「…確かに、経緯は嘘で」 「帰る場所があるんだ、良いね」 無責任なこと好き勝手言える訳だ。 表情でそう突き放された気がして、掴まえようとした腕は靄の様に手中から擦り抜けていた。 「パティ、」 「…心配しないで、貴方の事は誰にも言わない…優しさも本心だろうって分かるけど…けど、そうね」 先より一層ふらりと脚を伸ばした。 何も解決せぬまま瞳だけを鈍く光らせ、少女はもう相談は終いだとばかりに背を向けていた。 「私、自分でどうにかしなきゃ」 その決意は目的語が抜けていた。 誘導灯を浴びた背中は酷く頼りなく、重量オーバーの積荷へ軋みを上げている。 ジャンヌダルク。 悲劇の少女と重なる姿を憂い、本郷は思わず影を追って身を起こしていた。 「…待て、何をどうする気なんだ」 「挨拶するの。この会社を護って貰わなきゃ、貴方の言うレッテルを使うわ」 「お前、其処までしてセフィロスの役に立ったって」 流石に続きは口を噤んだが、相手を放り出す事も出来ず階段を駆け上がる。 御坂が新たなニュースを流したのは、彼女の身の安全を保障する為だ。 奴の事だから、改ざんまでやってのけたかもしれない。 そうでもしなければ、セフィロスはいつ何時でも彼女を捨て駒に出来たのだ。

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