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chapter.6-14
「おい、外行くつもりか?」
「そう!ついて来ないで」
「馬鹿言え、唯でさえこんな時間に…!」
前を走る足音が速まるのを耳に、本郷の脚が階段を数個飛ばして跨ぐ。
漸く少女の腕を捕まえたのは既に地上へ登り切り、裏庭に面するゲートを解錠した直後だった。
「…離してよ!何なの!」
「いいか良く聞け、お前のやろうとしてる事は諸刃の剣なんだ。セフィロスにヘマがあればヒエラルキーなんざ簡単に裏返って、お前の命だって危なくなるんだぞ」
「承知してるわよ、外野の貴方がとやかく言わないで!」
「あっ…痛い事を…」
小声で口論する2人の側面、開いたシャッターの隙間から砂漠の冷えた風が吹き込む。
見つからぬ間にと相手を押し戻そうとした矢先、本郷はふと覚えた違和感に首を跳ね上げた。
今、風と関わりなく、不自然に向こうの枝葉が揺れた。
普段なら見過ごすものを、此処は中東だ。
増してこの厳戒態勢。あらゆる方面に後ろめたい会社。
本郷はゆっくりとスーツに刺していた物を抜くと、視線だけを不可思議な方角へ向けて少女の身を屈ませる。
相手もその空気に異変を察したのか、口を噤み、もう反抗も無く静かにその場に膝を折っていた。
(侵入者か?)
この厳戒態勢の穴を突いたにしろ、良くもこれほど静かに。
たった一部の異変へ緊張しつつ、不穏の現場へ抜き足で走る。
野生が成長しただけの裏庭は、人員整備も間に合わず酷く閑散としている。
恐らくこの到着直後の隙を狙い、”我が社の敵”が戦力の偵察に来たのだろう。
そんな仮説を立てた矢先、本郷の視界を突如飛来した影が覆い、まったく反応する間もなく衝撃が襲った。
地面へ薙ぎ倒されたと理解するも、構える間際に拳銃すら弾き飛ばされてしまう。
(まずい)
完全にプロだ。姿も気配も、この目前で一つの無駄すら見えない。
(終わった)
この国を歩くのに、余りにも警戒が足らなかった。
次の止めを覚悟し息を呑んだが、頭上から降って来たのは緊迫が蕩けた様な声だった。
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