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chapter.6-15

「…義世」 名前を呼ばれて思考が止まる。 恐る恐る見上げた逆光には、まったく見慣れた同僚の顔が見下ろしていた。 「…へ?」 見慣れた、どころか最近まで自分が家に押しかけ、一室を勝手に間借りしていた様な関係だ。 不穏な外套に身を包んだ寝屋川は嘆息すると、早々と力を緩めて乗り上げていた身体を起こす。 「何をしてる?こんな国で…いやSweetie、御坂の遣いご苦労だな」 此方も同じ問いかけをしようとしていた口を噤んだ。 この国は寝屋川の過去だ。過去、というよりも非常に重いウェイトを占める、彼の現在までの軸を歪めた場所だ。 しかしこの会社で出会すのは想定外だった。 結局、御坂が自分に寄越した情報は最低限で、こちらも借りがある為に体よく使われていたに過ぎない。 「いや…お前こそこんな会社に何の用だよ」 「お陰様で人生に目途が立ちそうなんだ、しかもお前が居るなら此処がヘルゲートか」 一体何の揶揄やら分からない。困惑しつつも身を起こしたが、本郷はまたも次の発言へ意表を突かれていた。 「どうせ聞いてるんだろ、御坂」 「何!?」 「話してやってもいいぜ」 まさか此処にいるってのか。否、そんな訳がない。 すると直後見計らった様に懐の携帯が鳴り始め、すべてを察した本郷は憤慨して応答していた。 「お前盗聴してたのかよ…!」 『ずっとじゃないよ、電話代わってくれる』 何だか頭上を越えてボールをやり取りされている。間に居ながら蚊帳の外の気分で、本郷は憮然と同僚へ携帯を差し出した。 「…ああ調停者、久し振りだな」 『君の想定より警備は厚くなっていた。が、明日の夜の急襲は敢行か』 会話を見守る本郷は腕を束ねつつ、気が気でない。PMCの大軍を率いる化物と、国連の世界調停者なるファンタジー権力。 どちらも近しい知り合いであったが、今日は恐らくその限りではない。

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