177 / 248
chapter.6-20
「そんな事は知ってる、その上で声を掛けたのはお前らだろ」
縁の欠けたグラスを叩き付けた。
乗り物のせいでない振動に慄き、旧知2名は顔を見合わせる。
そう、勿論失態は自分たちにあった。事実を知れば、見て見ぬふりなど出来ぬと分かっていたものを。
「や…そうさ、言う通り俺はいつも気が利かない。電話をしたのも単に俺の軽率さだから…」
「ティーバ」
名前を呼んだ同僚が首を振る。
覆水盆に返らず。脳裏で塀から落ちた卵が弾けた気がして、追い詰められた当人はきまり悪そうに踵を返した。
「…一服してくる」
再会したなら、もっと楽しい話をしたかった。
背を向けて連結部のテラス部分へ向かう男を見送り、戸和は漸く割れんばかりに握っていたグラスを手放した。
当たり散らしているのは自覚している。
責任を擦り付けようが、行動したのは自分だと良く分かっている。
だが。
「和泉…ティーバが連絡しなければ、いずれ君はもっと怒っていた。違う?」
「その通りだ」
「そもそも君は、彼に対して怒っている訳じゃない様だけど」
その通りだ。両手を組み、その腕に額を乗せ、只管にテーブルの木目を睨んで繰り返した。
別に今生の別れじゃない。死ぬと決まった訳でもない。
だが、何故、そうであるなら、ひとつ理由を説明すれば良かったのに、どうして逃げる様に此処へ来た。
今まで見て見ぬふりをしてきたが、自分は何時だって、彼に、萱島に対して、余りにも自分勝手で
「――…敵襲だ!!ハイネ!和泉!侵入…ーー!!」
テラスから響いた咆哮に顔を上げた。
まさか貨物目当ての山賊でも現れたのか。
戸和は一足飛びにアサルトライフルを手繰るハイネに続き、現場へ続く車両へ移動しようとする。
「和泉、君は此処に」
「馬鹿を言うな」
一帯にはティーバが遠くでやり合っている様な、唸り声の様な音が続いている。
命は無事であってくれ。
結局相手を押して先行し、テラスへ面した扉を引き開けた。戸和は想定外の光景に出会し、一切の反応を忘れてその場へ立ち竦んでいた。
ともだちにシェアしよう!