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chapter.6-20

「そんな事は知ってる、その上で声を掛けたのはお前らだろ」 縁の欠けたグラスを叩き付けた。 乗り物のせいでない振動に慄き、旧知2名は顔を見合わせる。 そう、勿論失態は自分たちにあった。事実を知れば、見て見ぬふりなど出来ぬと分かっていたものを。 「や…そうさ、言う通り俺はいつも気が利かない。電話をしたのも単に俺の軽率さだから…」 「ティーバ」 名前を呼んだ同僚が首を振る。 覆水盆に返らず。脳裏で塀から落ちた卵が弾けた気がして、追い詰められた当人はきまり悪そうに踵を返した。 「…一服してくる」 再会したなら、もっと楽しい話をしたかった。 背を向けて連結部のテラス部分へ向かう男を見送り、戸和は漸く割れんばかりに握っていたグラスを手放した。 当たり散らしているのは自覚している。 責任を擦り付けようが、行動したのは自分だと良く分かっている。 だが。 「和泉…ティーバが連絡しなければ、いずれ君はもっと怒っていた。違う?」 「その通りだ」 「そもそも君は、彼に対して怒っている訳じゃない様だけど」 その通りだ。両手を組み、その腕に額を乗せ、只管にテーブルの木目を睨んで繰り返した。 別に今生の別れじゃない。死ぬと決まった訳でもない。 だが、何故、そうであるなら、ひとつ理由を説明すれば良かったのに、どうして逃げる様に此処へ来た。 今まで見て見ぬふりをしてきたが、自分は何時だって、彼に、萱島に対して、余りにも自分勝手で 「――…敵襲だ!!ハイネ!和泉!侵入…ーー!!」 テラスから響いた咆哮に顔を上げた。 まさか貨物目当ての山賊でも現れたのか。 戸和は一足飛びにアサルトライフルを手繰るハイネに続き、現場へ続く車両へ移動しようとする。 「和泉、君は此処に」 「馬鹿を言うな」 一帯にはティーバが遠くでやり合っている様な、唸り声の様な音が続いている。 命は無事であってくれ。 結局相手を押して先行し、テラスへ面した扉を引き開けた。戸和は想定外の光景に出会し、一切の反応を忘れてその場へ立ち竦んでいた。

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