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chapter.6-21

「May I speak to Izumi !? Is there !?」 どう見ても中高生辺りの小柄な体躯が、蹲るティーバの首を掴み、短い銃を突き付けている。 「Understood !! Understood !!」 アンバランスに大きな目がぐるりと此方を向き、暗闇の最中で視線がぶつかった。 「…沙南」 誘導灯の青い光の下で、何だか別人の様に見えた。 恐らく単車か何かで乗り付けたのだろう、風に髪をぐしゃぐしゃにしながら、目だけ煌々と光らせた萱島が真っ直ぐにこちらを見ている。 「和泉?知り合いか?」 「…そう」 答えかけて、そんな程度の間柄でないのを思い出す。 萱島は目的を果たせた為か、既にティーバを解放し息を切らせてその場へ立っていた。 「お前、どうやってこんな所まで」 「…君が、してたみたいに携帯のGPS…それからこんな時間に、山中で動いてる乗り物はこれだけだから」 受け答えをしながら、不思議なほど遠い声へ何処に居るか分からなくなる。 いつも隣にあった物が、別次元みたく異質で変だ。 相手の表情は怒ってなどいない。ただ衝動に突かれて、訳の分からぬまま飛び出してきたような焦燥があるだけで。 「バイクで乗り付けたのか?…こんな夜中に、何かあったら…」 「和泉、話をするなら僕らは席を外すよ」 ハイネは状況を察したらしく、未だついていけないティーバを引き連れてドアを開ける。 重い貫通扉が閉まる音を契機に、テラスには再び無音が戻っていた。 この時期の山中は実に良く冷えた。 頭上には灰色の鱗雲が散らばり、良い夜とは言い難い景色ながら、走り去る非現実感が何処か銀河鉄道を思わせる。 箱はただの安っぽい貨物列車だが、青白い誘導灯は終幕手前の演出照明のようだ。 地に足のつかない感覚で相対しながら、戸和はたった数日振りの顔を新鮮に眺めた。 「あ…なんか、久し振りに会ったみたいだね」 「ああ」 銃まで持って乗り込んできた癖に、話し出しを迷っている。 萱島沙南とはそんな人間で、何時だって戸和の出方を待っていた。 だからこんな場所で無理やりに、出会う想定などなかったのだ。 こちらが置いてくれば従順に、勝手にいつもみたく此方を理解してくれるものだと。

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