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chapter.6-24

「…嘘をついた」 そして君は今生、言わなかったであろう台詞を吐いた。 もう駄目そうだった。 真っ青な顔へ汗を浮かせた萱島は、それ以上の抵抗も浮かばず、只々崩れ落ちていく足元を睨んでいた。 「俺は根拠も無く、お前とずっと一緒に居られると思って」 そうだと思うよ。普通、そう思うじゃない。 真っ暗い夜の帳で息も出来ず、死にそうな悪寒に立ち竦み、酷い馬鹿を見た心地で唇を震わせる。 そう思うじゃない、だって結婚までしたのに。 あんなに長い事が、こんな一瞬で駄目になるなんて、誰も思わないじゃない。 「沙南」 この先も一生、死ぬまで隣で聞くと思っていたその呼び声も。 これが最後。最後らしい。 やめてよ、そんな最後なんて嘘だよ。 さよならなんて言うのやめよう。 そもそも続きの言葉なんて無いよ。 もう別にその人の事もいいじゃない。 楽しかったじゃない、2人で。 明日も一緒に居ればいいじゃない。 こっちを見捨てないでよ和泉 きっとその人はこの先一人でも大丈夫だとしても、自分は明日だって明後日だって、君が居なかった世界にはどうやったって戻れないのに 「…い、言う事何でも聞くからさ!付いていくだけだよ、良いでしょ?邪魔しない、黙ってるからさ、ずっと!」 「沙南」 「ああ、そう…!君が勝手なんて言ったのも嘘!勝手じゃないよね、助けに行くんだもんね…そ、その人、どんな人なの?君が世話になったんならすごく」 「――沙南!」 怒鳴られたのなんて初めてだ。 凍り付き、声すら剥ぎ取られた萱島は、もう何の手段もなく固まった。 「勝手なんだ俺は、だからもう良いだろ…言う事聞くって言ったんだろお前は」 周囲には灯りが増え、山間を抜けた列車は町並みに出ていた。 トンネルの轟音が消え、一転した穏やかな大気へ溶けるように速度が落ちていく。 「この辺にはタクシーが通る公道もある、列車を降りろ」 「…じゃあ…行き先を…」 「今直ぐに降りろ、お前とこれ以上話す事は何もない」

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