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chapter.6-25
妙にきらきらと目に反射する。
ユートピアの眩い背景の中、戸和は消え入りそうな声で最後のおやすみを吐いていた。
「もう二度と俺を追い掛けるな」
列車の速度が落ち着き、最早体感は止まっているのか、走っているのかも分からない。
萱島は次の瞬きをする間に肩を押され、均衡を崩してテラスから夜の暗がりへ転がり落ちた。
荒い雑草の上を滑り、しかし大した衝撃もなく舗装された道端へ止まる。やっと顔を上げた頃には乗っていた列車は遠ざかり、見る見る内に知らない明日へと走り去って行った。
「…まって、置いていかないで」
立ち上がり追い掛けようとした。
頭の奥で何かがミシリと音を立て、統制が切れた様に膝が折れ曲がる。
「お、置いていかないで、和泉」
肉体的ダメージは何らない脚がガクガクと震え、全身に波及してつんめる様に倒れ込む。
遠くでは列車がトンネルに吸い込まれ、もうどれだけ急いでも追いつけない端へ消えてしまった。
「一人にしないで」
指を広げ、呆然と何の指針も無い目で益体な手を見詰める。
何も無くなった。今度こそ。
でも一度手に入れた後では、逆立ちしたってその前には戻れないのを、君は知っているだろうか。
エンジェルダストとは、何処かでいつか耳にした解離性麻酔薬だ。
これから自分は嗜癖に苦しみ、幸せの絶頂だった左手の指輪ですら、目にする度身を切るような痛みでのたうち回るのだ。
一人じゃ生きて行けないよ。
会わなければ及びもしなかった台詞を吐き、狭まる軌道の息苦しさに蹲る。
君は新しい世界を与えた代わりに、過去の世界を奪ってしまった。
そうして与えた物もいま全て取り上げ、すっ空になった自分を放り出したのだ。
「…夢だ、夢だ夢だこんなの」
殆ど音も出ない喉を押さえ、萱島は地面へ逃げるように塞ぎ込んだ。
「今日のは全部夢だ」
きっと目が覚めたら家のベッドに居て、呆れた様な君がこちらを見ている。
そんな幸せな結末を乞う萱島を嘲笑うように時は流れ、耳元の腕時計はカチカチと秒針の音を吐き出していた。
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