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chapter.7-1 快晴のおやすみ

6月某日。 夏と言うには尚早で、春と言うには余りに胸騒ぎのするインターバル。 確か去年は仕事に私事に忙殺され、何か考える間もなくカレンダーは埋まっていった。 当時の忙しなさを考える度、どんどん今が無色に透き通っていくのが分かる。 誰も居ない部屋を通り過ぎ、薄いレースのカーテンを揺らし、毒にも薬にもならない初夏の風の様に。 (2日前) ガウンを引き摺りながらキッチンへ向かい、冷蔵庫を物色する手が未開封の鶏肉を放る。 (これは3日前) 廃棄品を放るだけでダストボックスが一杯になった。 以前なら罪悪感も一杯になったものを、今日は疲労が募るだけだった。 「…めんどくさいな」 スーパーまでの距離を思い出し、萱島は人気の無いリビングを振り返る。 「あのさ、和泉」 さわさわと白いカーテンが泳ぐだけで、2脚の椅子は役目を失っていた。 「ああ…居ないんだっけ」 致し方ない事のように呟き、益体な冷蔵庫を閉める。 道中を覚えていないが、昨夜自分は真っ青な顔でタクシーを拾い、転がるように帰った玄関で意識を失った。 夜が明ける前には一度目が覚めたが、誰かに事態を連絡する気力も無く、結局現実から背ける様に蹲って目を閉じていた。 そして迎えた朝。 予想はしていが、走り去った列車は夢ではなく、誰も居ない部屋には外出前に放り出した洗濯物や新聞がそのまま散らかっていた。 君は去り、二度と自分の日常には帰って来ない。 昨夜はいきなり抉れた苦しみにのたうち回ったが、陽が昇れば今度は途方もない空虚が襲い来て、結果今は 「…うるさいな、こんな時間に」 床に落ちていた携帯が鳴り続け、億劫な気持ちで取り上げる。 「何の用ですか」 液晶には随分と懐かしい名前が並び、電話口からは相変わらずイントネーションの可笑しな関西弁が流れて来た。 もう数年ぶりだった気がする。前職の世話役は親の容体が余りよろしくない旨を告げ、折を見て見舞いに来るよう連絡してきたらしかった。

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