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chapter.7-4
そう言えばこの牧の話し方、新人研修でよく聞いたな。頭の隅でそんな所感を抱きながら、咀嚼できない内容へ目を白黒させる。
萱島の中で、何時だって戸和は完璧だった。
だから安心出来た。頼り切っていた。そうか。頼ってくれ等とせがんでおいて、進んで甘んじるポジションに嵌ったのは自分だった。
「2人のディベートなんて一票ずつしか無いのに、アンタが譲ったらいつもアイツの勝ちが決まるでしょ。偶には戦おうと思いませんか」
「でも、俺が…間違ってるかもしれないし」
「俺は今回の件、貴方が正しいと思います」
事情は知らんけど。
清々しいほど言い切る牧に圧倒され、弱音すら封じられた上司が目を剥く。
「一票譲りましたよ。二対一なんだから、それで勝てますよね?」
先般、TPがやって来た日のように額を弾かれる。
もう圧倒されっぱなしだ。萱島が返しも浮かばず間抜けにコクコクと頷けば、部下は何やら大きく息を吸い込み、明後日を差して俄かに声を張り上げた。
「よおし!分かったらさっさと行けェ!もう俺はアンタらが休む度に生死の境を彷徨うのはうんざりだ!!!!」
「あっ…いや、いつもほんと…申し訳ないとは思ってますが」
「早く追い掛けろ!今度何かあったら俺は労働局に諸々の記録を…」
「分かった分かった!行ってくるから、悪いんだけど…あと1週間くらい」
「1週間も徹夜出来るかふざけんな!3日で戸和くんと役に立たん責任者連れて帰ってこい!」
「はい」
萱島はもう一切の無駄口をやめ、生真面目な返事ひとつで逃げるようにその場から走り出す。
殺される。
歩調を緩めようものなら背後からチェーンソーを持って追い掛けて来そうな殺気に青ざめながら、一目散に出て来た借家に向かって脚を動かした。
「やばいやばい、帰ったら牧に一月くらいフル休暇渡さないと…」
完全に尻に火を点けられた。先まで鬱屈と人生を呪っていたのが嘘みたいに、焦燥に駆られるまま先を急ぐ。
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