189 / 248
chapter.7-5
「…ああーーもう結局…!結局助けられてばっかりだなあ、俺…!」
途方も無く情けなくて、然れど奥底から堰を切って変な笑いが込み上げてきて。
あんな格好いい部下が居て、叱りつけるほど踏み込んだ情を貰えるなら、なんて素敵な人生だろうか。
戸和が居なくなっただけで色々忘れ過ぎていたが、自分には彼だけでないし、彼だって世界を構成する人間は自分だけでない。
「そう俺だけじゃないんだよ、君を必要としてるのは…まったく悩んでる場合じゃなかった、場合じゃなかったんだけど…」
建物を目前に息を切らせて急停止する。
先とは別な冷や汗を流しながら、萱島は途方に暮れて電柱に問うた。
「…何処に行けば良いんでしょうね」
戸和くんは昔の仲間を追っかけて行った。
ということは中東近辺、という漠然とした情報しか自分にはない。
おまけにこのご時世でビザは発行されておらず、一般人が入国する手立ても無い。
もう積んでしまった。
虚しい状況に半笑いを浮かべていたが、ふとそんな窮地へ天の声のように記憶の一端が引っ掛かる。
――あ、そうだ…もし何か困ったら連絡して下さい。
実に掴みどころのない声と赤い髪。
馬鹿でかい空母から日本まで送ってくれた青年の顔が蘇り、萱島は迷いなくポケットから携帯を引っ張り出す。
「いや…駄目元で仕方ない」
例え邪険にされてもそれからだ。
縋る思いで電話を掛ければ重みが通じたのか、10を数えた辺りで単調な機械音は途切れ、件の掴みどころのない声が用件を問うてくれた。
『…職員のご親族ですか?』
「あっ…すみません、あのアポイントメントが…アポイントメントを」
『アポイントメント…?いえこの時間は、ゲストの方はお取次ぎしておりませんが』
なんだと。あれから優に半日近い時間を掛け、アメリカのとある機関窓口に突っ込んだ萱島が石化する。
確かに朝方約束の取り付けに成功した筈が、最後の頼みの綱に門前払いされるとは。
ともだちにシェアしよう!