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chapter.7-6

『そもそも一体何時だと思ってるんだ…?完全に営業時間外だよ』 「はんっ…!?」 言われてみれば辺りは真っ暗で、萱島は慌てて備え付けのデジタル表示を確認する。 午前1時12分。 恐ろしいほど非常識な時間にダラダラ汗を流し、そう言えば死に物狂いで来たお陰で忘却していたAMとPMの境、延いては”時差”という概念を思い出す。 「あっ…やっ…その、夜勤お疲れ様です…へへっ」 『こんな時間にアポイントメントなんて誰だ?職員の名前は?』 「あ、あの…マチェーテさんという赤い髪の」 『マチェーテ大尉?まあ在籍は確認してみるけども…』 どうやら立派な肩書が付いていたらしく、勝手に頼ってやって来た萱島は押し黙る。 防弾ガラス越しの守衛は首を傾げると、勤怠管理を見るべく備え付けのモニターへ向き直った。 『…あー、そうだね…数分前に外出してるよ。別の受付が通したみたいだけど、そいつも休憩に行ったから』 「そ、そんなぁ…」 尤も、多忙であろう人たちだ。 アバウトな到着時間しか伝えられず飛び込んだのでは、此処から数時間会えなかろうが文句は言えない。 ただ流石にとんぼ返りという訳にも行かず、手前のベンチで待たせて貰えないか問おうとした。 萱島の背面から不意に聞き覚えのある声が響き、悲嘆に暮れていた肩が面白いように跳ね上がった。 「萱島くん?」 毫も棘の無い、飛び切り柔らかい声質と、一人しか使わない呼び方。 もう振り返らずとも分かったが、顔を向けて視認した人物へ、萱島は安堵からその場に崩れ落ちそうになる。 「せ、…先生…!!」 「どうしたの、アメリカだよここ」 「あ、子猫!」 おまけに御坂の背面からは彼の副官が顔を出し、恰も生き物を発見したような反応を寄越してくれた。 「もしかしてマチェーテをお探しですか?生憎あのハッピーセットは出荷中でね、こちらで良ければ承りますが」 「ほ、本当ですか…?助かります…」 「和泉くんが何処か行っちゃった?」 しかし結局、告げる前に用件を言い当てられる。 萱島が放心して口を開けっ広げると、記憶と違う格好の相手は見慣れた笑みを湛えていた。

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