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chapter.7-8
「私ならサーが断りもなく逃げようものなら、追尾して拘束した挙句――しますがね」
「お前はもう黙りなさい…萱島君」
放心する萱島の肩へ手が乗った。引き摺られるように顔を上げた先では、束縛でも放任でもない不思議な色の目が見ている。
また無意識に優しい言葉を待つ。甘い“子猫”の期待を裏切り、口を開いた彼は硝子一枚隔てたような返事をくれた。
「――切符はあげよう、行動するのは君。僕は神様じゃないから、結末は知らない。それでいいね」
励ましてくれるかと思った。
突き放された心地の当人は考え、しかし提言が全く冷たいのでないと気付く。
それは自分に判断を委ねるある種の信頼であり、既に此処まで来ていた自分への駄目押しであり。
優しいだけが思いやりじゃないということ。自立した一人の大人として対応してくれた彼に、今度は確固たる意志で頷いた。
「はい…充分です、ありがとう」
「あとね、序に1人と言わず2、3人の人生変えてきなよ」
「……………へ?」
「じゃあ宜しく」
行動するとは決めたが、流石に最後の台詞は理解出来ない。
矢張り忙しいのか早々と去って行く責任者を見送っていると、共に残された副官が向き直り、そう言えば流暢な日本語で助けをくれた。
「切符は用意して部下に届けさせましょう、子猫。ロビーで少々お待ち頂けますか」
「あ、ありがとう…ございます」
「…サーから具体的な指示がない仕事は気にしなくて結構、結果そうなる件なので。心配しなくとも、貴方が向かう場所は考える間もありませんよ。弾は理屈より余程速く飛ぶのでね」
彼女の瞳の奥に、鮫の如き無機質さを見て慄く。
飛び退いた萱島に目礼するや、可笑しな国の住人たちは颯爽とゲートの奥へ吸い込まれて行った。
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