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chapter.7-9
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「さっきから時計ばかり見てどうしたの?」
地下へ下る階段の手前で止まった。
本郷の挙動を訝しみ、少女は靴の留め具の位置を直しながら覗き込む。
「…夜間急襲って何時にやると思う?」
「は?何?何の話?」
突拍子もない問いについ声が大きくなった。
が、考えてみればしかし、突拍子はなくも無かったのだ。
事実として会社には大量の戦闘員や軍用車が犇めいており、明らかな襲撃を待ち構えている。
ただその問いは決まって答えられる定型文も無く、結果、パトリシアは新たな質問を被せるに至った。
「…もしかして貴方の上司からの情報?」
「ああ、まあそんな所」
「今日来るの?」
「明日の…ん?もう日付変わったのか…そうな、今日の夜」
水とレーションと応急手当のキットを抱え、本郷は何てことない様に肯定を寄越す。
2人は今、例の捕虜を助けるべく幽閉先の地下に来ていた。
最初は果たしてどうしたものかと思ったが、パトリシアの権力は最早マスターキーと化しており、警備は姿を見るなり簡単に道を開けてしまったのだ。
「…正確な時間は分かるの?セフィロス様に伝えなきゃ」
「お前が言ったら変な顔されるだろ、というか俺も良く知らんし」
「知らないの!?…ああ、着いたわ」
矢張りと言うか少女は怯える様子も無く、目前の倉庫へと意識を戻してしまう。
とんでもねえ肝の座り方だ。
本郷はやっぱり誰かに似た姿をまじまじ眺めつつ、警備から奪った鍵で独房の入り口を割り開いた。
「――ハロー、サー」
乱暴に鉄パイプへ縛られた姿が目に入り、一先ず挨拶から入った。
幸い大した怪我も無い彼は、スーツを着こなした男と少女の組み合わせに言い難い顔をしている。
「本郷と言います、こっちはパトリシア」
「…こんにちは救世主のお嬢さん。紳士も何の用かな」
柔らかい物腰に虚を突かれる。アラブ系の顔立ちをしているが、随分綺麗な英語が返って来たことにも。
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