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chapter.7-10
「あー、勘違いなら悪いんですが…僕の部下が貴方の知り合いなんじゃないかと」
「部下?名前は?」
「瀬戸和泉っていう子で…」
20代の。付帯情報を加えようとした矢先、既に変わった表情を目にして口を閉じる。
矢張り同郷だったのか。ともあれ、どの位の間柄だったのか。
本郷が次の台詞をぐるぐる逡巡している間に、今度は向こうから矢継ぎ早に質問が飛んできた。
「何で分かった?」
「徽章に見覚えが」
「どうして此処に来た?目的は?」
「貴方を解放しに」
言う間にカッターを取り出し、彼に嵌った手錠の鎖を切ってしまう。
一瞬で自由の利いた両手を眺めると、精悍な顔つきはより何やら厳めしく眉を寄せていた。
「真意が怖いなRIC、復讐相手の手枷を取って誰か泣き止むのか?」
「…貴方はうちの襲撃に直接関与していなかったでしょう」
「確かに俺はキャンディーはスターバーストよりレッドバインズ派だが、君は?」
「えっ?」
斜め45度へ打ち返された球に、気の抜けた声が出る。
何か特殊な意図があるのか迷ったが、結局訳が分からんと適当を答えた。
「まあ…俺もどちらかと言えば」
「だよな、アレは思い出の味がするんだ。日本人は気が遣えていいぜ」
男は立ち上がり、結局正解のない問いを隅へ放り投げる。
そして凝り固まった肩と首を回すや、通りの良い声で献立を読み上げるように次を話し始めた。
「恐らく俺のアホな部下がもう直此処へ来る、誰かが口を滑らせれば和泉もおまけでよ…だから君の提案には乗ろうか、命の恩人」
「…俺は未だ何も言ってませんよ」
「君は手土産を捜す協力者を求めているのでは?君の管轄は…多分今違うんだろうが、上がやりたいのはこの国の政権交代とかそんな所だろ」
この男、一体幾つ先の話をしているんだ?
本郷ですらその思考回路の早さへ追っつかず、何処から聞き返して良いものやら視線があっちこっちへ泳ぎ出す。
言ってる内容は十分合っている。
しかし今しがたこちらの素性を知ったばかりで、どうやって其処まで考えが至るのか一から説明して欲しい。
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