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chapter.7-17

「――…ウッド、窓から離れろ」 答え兼ねていた矢先。 俄かに寝屋川が話の腰を折り、部屋の空気が張り詰める。 仕方なく口を閉じて壁際へ身を隠すや、副官は特に異変のない窓の外を覗き込んだ。 「…相変わらず六感が利きますね」 数秒遅れて届いたエンジン音に、偵察であろう装甲車の接近が知れる。 矢張りこちらの本陣を捜しに来たらしく、敷地のでかい建物を見付けては立ち入り検査に入っていた。 「我々は非常に細かく、身軽だ。中枢を叩けば終わる部隊ではない…しかし万一捕虜を取られては面倒です、サー」 本作戦前に交戦するのも止む無しか。 「襲撃を早めますか」 「早める?攻め手は焦らない。そして”私”は君達を舐める気も毛頭無いよ、同志」 ガシャン、とピカニティレールの部品を挿げ替えた音がした。 同時にゆらりと眼前へ立ち上がる影へ、ウッドは幻覚に相対した心地で立ち尽くす。 「夜間急襲を待つ連中が最も油断する時間は?ーーハリーよ、少しイレギュラーだが明快だ。我々は夜明けと共に動くとしよう!」 さっき敵を間近に感じた瞬間総毛立った。 それは敵への警戒でなく、過去に共闘した上官そのものが帰って来ていたからだ。 (曰く、”貴方が捨てた当たり障りない日常”では) 足元にはガラガラと装甲車が立ち退く振動が続いている。 焦がれた火を戻した上司の目を見ながら、ウッドは歓喜と虚しさの狭間で顔を強張らせていた。 (貴方は生きられなかったのでしょうよ、サー) 抜け殻と共に過ごした所で、一体誰が幸せになったというのだろう。 なら今が最善だったのかと問われればそうでもなく、結局どう転んでも難しいと思い知らされただけだ。 「…了解です、閣下」 纏まらない思考のままウッドは席を立ち、同志と通信すべく部屋を出る。 明日は革命記念だ。良くも悪くも、そんな転機だけは確信しながら。 *** 妙だ。もう短針は優に頂点を回っている。 しかし夜は静寂そのもので、耳を澄ませば獣の寝息すら聞こえそうに思える。 「…午前3時25分」 背後へチョロチョロと下水の流れる音だけが続く。 あれから結局床下で議論を交わしていた2人は、時計を確認するや晴れない顔を突き合わせていた。

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