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chapter.7-24

1、2、3。 5つも数えぬ間に戦車の周囲へ火の手が上がり、蟠っていた敵の歩兵が散り出した。 戦車の射手も異常を察してハッチを開くが、頭を出した瞬間に射抜かれて転がり落ちる。 API(徹甲焼夷弾)で車を幾つか引火させたのか。 ヴィチェやウッドの部隊が凝視する間にも人影が戦車に走り、今度は開いたハッチへ直接手榴弾を投げ込む。 籠った爆発音。戦車は内部から破壊され、ものの数秒で一帯は沈黙した。 路が開けた。固唾を飲んで見守っていた部下は、遅れて来た無線へみるみる表情の陰りが失せていた。 『負傷者は居るか?ヴィチェ』 『居ません、全て問題ありません』 『なら走れ。ウッド、ロゼ、お前らの隊も今から俺の預かりだ、先行して本社へ道を開くぞ』 導き走り出す影が消える。その背を身体で追いながら、誰もが砂塵の中、10年前にタイムリープした蜃気楼を見ている。 あれは嘗ての上司。死んだ仲間に同じ、心の底で二度と出会う事はないと諦めていた彼の完全体。あの悲劇で失った筈の絶対的な希望が、不可能を可能にする麻薬の様に脳を溶かし始める。 「大尉が帰って来た」 誰かが呟いた。目が焼ける様な明け方の逆光の中、ウッドは光悦としたその様相へ幽鬼でも見た様に後退った。 「ご病気なんて嘘だった、大尉が帰って来た」 どうやら歪なみんなの希求が、phantomを呼んだらしかった。悲しい悲しい、過去にしか生まれ得ないphantomを。 彼の黒い翼に共鳴し、隊列は呼吸を取り戻して恐らく、彼らの考える前へ走り出す。 分散していた雑兵が瞬く間に小隊規模となり、マッピングシステムを注視する敵本部は青褪めて怒号を飛ばし始めた。 時刻は午前5時17分。 遥か上空ではナイトストーカーズが低空飛行に入り、本社前の待機戦車へAGM-114を見舞わんと構えている。 地上を走る部隊へ敬礼を示す。彼らの視界に映る空は、溜息が出るほど美しい快晴だった。

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