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chapter.7-28

「…ジムを診てくれた先生が俺にこれをくれた」 「ん?何だ突然…アイツのロザリオか」 僅かにチェーンが擦れる音に目を向ければ、戸和が見覚えのあるペンダントを握っている。 年季の入ったシルバーは、持ち主の姿也からどうでも良い冗談まで、さまざまを想起させた。 「結末までは変えられなくとも、これが手中にあるのは俺が行動した結果だと」 「ふん…で?お前は、今回も後悔しない様に来たって?」 そう、自分はただ、自分が後悔したくない為にやって来た。 今度こそこのロザリオよりも、救いのある結果を求めてやって来た。 ただ分からない。結果と過程とどちらが大切なのか、そもそも何が結果で過程なのかすら。 数年前自分は萱島こそが人生の結果であると確信し、海辺で人生の半分をあげるとすら告げた。 そうして指輪を渡した。物語は完璧に美しかった。 だが現実というものは其処からが長く、あの日以降の幸福が確約された訳でもない。 「妻を捨てて選んで貰えるなんて、ガロンも果報者だな」 「――…捨てた?」 先から全くふわふわと覚束ない。青年の受け答えが、此処に来て殊更頼りなくなる。 ティーバは胡乱な者を見る目つきを向けた。遠くでは微かに、モスクの鐘がガラガラと夜明けの礼拝時間を告げていた。 「…捨てた?俺は…そんなつもりじゃ…」 「――Fire in the hole!!」 壁を隔てた近距離で何かが炸裂する。 手榴弾でも投げ込まれたのか。イラクの脆い土壁は粉微塵に吹き飛び、視覚に加え聴覚までも酷い耳鳴りで閉ざされる。 『ザッ―…――泉、和泉ーー!』 辛うじて相棒の声が無線越しに届いた。お互い無事らしい。 しかし付近には足音と銃声が雪崩れ込み、一転して血みどろのゲリラ戦へ変貌していた。 『此方に合流出来るか?壁伝いに時計回りだ』 「対岸か…?了解だ」 ルートを確認して駆け出せば、数コンマ前に居た場所へ雨霰とAR弾が降り注ぐ。 ああそう、こういう酷い国なんだ、自分が生まれ育ったのも。 きっと隣を歩いていれば、次の瞬間にどちらかの頭が吹き飛んでいたって可笑しくはない様な。

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