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chapter.7-30

「沙南」 真っ白い頭でその名を呼ぶ。 相手は顔を歪めながら、自分を越えた重量へ歯を喰いしばっている。 「沙南、何やってる」 一寸夢かと呆けたが、腕に喰い込む痛みで目が覚めた。 相手は反対の腕を柵へ固定し、信じ難い執念で戸和の体重を捕まえている。 「…お前の体重で支えられる訳が無いだろ、離せ!」 肩が外れるどころでは済まない。もう直に2人で落ちる。 今保っていることすら奇跡の中、戸和は引き剥がそうと躍起になるが、萱島は退かない。 「手を離せ!!撃つぞ…!!」 到頭上着から抜いた拳銃を突き付けた。その銃口を受けながら、ぞっとするほど鋭い目をした萱島が此方を睨み返した。 息を呑む。そもそもどうして。 「――…っ…!う、ぐっ」 気圧されて黙る間に、有り得ない力が戸和の身体を僅か引き上げる。 そもそもどうして、お前はこんな場所へ来れたというのか。 戸和の片手が縁へ届き、後は己の力と僅かなサポートだけで這い上る。 転落の危機を逃れてテラスに蹲るが、直ぐに頭は無茶苦茶をした相手へ傾き、追い縋る様に細い肩を捕まえていた。 「沙南…っ、大丈夫か!腕を見せてみろ!」 何で此処に、どうやって此処に、どれだけの覚悟で。 大量の疑問をぶつけようと息を吸う。そして常の調子で叱る直後、矢庭に頬を襲った痛みへすべてが吹き飛ばされた。 何が起きたか分からなかった。 ただ衝撃で地面を向いたまま固まり、戸和は燃える様な熱を持つ患部を指で押さえていた。 「お前、ふざけんなよ」 人生で初めて聞いた声がする。 床に点々と散る赤を見送る内に、次は胸倉を掴み上げられて視界が上向く。 「こんな物未だ着けてたのかよ」 何の話かと思えば、さっき掴んだ手に見えた指輪の事らしかった。 ”こんな物”等と非難される覚えはないが、一体どういう事か。相手は逆光で目を光らせ、自分の知らない姿で自分を糾弾し続けていた。

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