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chapter.7-32

何かが壊れた世界は静かだった。静かで、言葉も無いまま二人は其処に蟠っていた。 遠くで砂を舞い上げていた風すら黙り、一帯だけが隔絶される。 やがてインカムから微かに漏れた、相棒の安否確認がやっと両者を捕まえ、現実の時空へと引き戻していた。 「――…あの教会で誓った文句に、ずっと違和感があったんだ」 永遠みたいな沈黙を経て、身を起こす萱島が再び口火を切った。 先までとは打って変わった柔らかな声に、青年は何も言わず言葉の続きを待つ。 「絶対だの死ぬまでだの…そんな文句は唱えたその時しか幸せじゃなくて、俺は君にそんな事を強要したくもなければ、建前で唱えて欲しいとも思わなかった」 建前で言ったつもりは毛頭無かった。 けれど、今は萱島の言いたいことが100パーセント理解出来た。 不確かな未来への約束など、この世界で自分達を縛り付けるだけだ。 しかし、だからと言ってシビアにならざるを得ないのか。迷う戸和の肩へ力が加わり、目を上げた時には力強く左手を握られていた。 「あのね和泉、ずっと一緒に居てなんて言わない…一生愛してなんて言わないよ」 萱島の手が自分に重なり、生易しくない力が互いの指輪を締め付ける。 未だ真新しい銀細工は砂と、両者の血と、傷に塗れて汚れてしまった。 「ただ終わる時は二人で決めよう、この指輪は夢や願望なんかじゃない。これから何があっても、終わりが来ても、お互いに現実から目を背けない。そういう誓いだと思うんだ」 これ以上ないほど現実的で、残酷な提言だった。 戸和が恐ろしくて口に出せなかった物を、萱島ははっきりと目を見て、言葉に出してしまった。 「…ああ、俺も」 嫌なことも不確かなことも終わりも、全部目を背けずに受け止めて前を向くこと。 それが如何に辛くとも、難しくとも、お互いの人生の為に、未来の為に。 そうだ。甘ったるい、生易しい気休めだけでは、もう二人は納得出来なかった。 其処まで深く関われた。運命を共にした。 間違いなく唯一無二だった。今は救われていた、その実感だけで。

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