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chapter.7-34

「事情って?」 「…いや俺は理解出来るんですよ、理解出来るし、彼の幸せを誰よりも願ってますけども、やっぱり弊社で一番替えの利かない存在が誰かと言えば」 「簡潔に頼む」 「ああ…簡潔に言えばRICに戻りたくないそうです」 神妙な顔をしていた戸和が途端に眉尻を下げ、萱島は萱島で睨んだ指先を弄り始める。 1人部外者ながら察しの良いティーバは、「お前の会社やべーのかよ」と能天気な声で核心を突いた。 「――この下水道を上流に伝えば本社らしい。ルートは複数あるから、先に中へ連絡して合流場所を決めねえと」 「あー…りがとう御座います、ティーバさんは?」 「俺は此処で出口のお守してるから」 日本人らしくペコペコと頭を下げ、萱島は退路を護る彼を残して、戸和と共に暗い地下道を歩き始める。 未だ何処となく気まずさは拭えないが、先に片すべき問題が沢山有った。 進む脚は止めぬまま、萱島は戸和の無線を拝借して副社長と再び会話を試みる。 「――…あ、もしもし、聞こえてます?萱島ですけど」 『萱島――!お前ちゃんと戸和と合流できたのか…良かった、ほんと良かった…』 「あ…はい、ありがとう御座います。それで本郷さん、今本社の何処に居るんですか?」 『え、俺?何で?』 何でじゃねえよ。 心なしか以前よりサイコな返答に閉口しつつ、負けじと機内で伝えた件をもう一度言い募る。 「迎えに行きますんで!もう御坂先生のお遣いは済んだんですよね!聞きましたよ」 『お前が迎えに来たの戸和だろ?もう役満じゃん、じゃあ』 「…副社長、その用事は完了したので、今は2人で貴方を迎えに行くんです」 横から戸和が口を挟むも、本郷は「ふーん」と実に気のない返事を寄越すに終わる。 その返答はまるで何処かの誰かの様だ。嫌な予感で続きを待つ2人に、上司は妙に深刻な声色を持ち出して理由を述べた。 『俺な…今、週に2日も休みがあるんだ』 「休み?週休二日制なんて日本で捜しても山程あるよ!」 『嘘吐くな!お前ら俺を現実に連れ戻す気だろ!』 「何だこの人!これだから社長のカルト信者は!」 気圧の問題でなく頭が痛くなってきたが、このまま放って帰る訳にもいかない。 萱島が次を考えあぐねていると、やっと常の調子に戻り始めた副社長が本当の所を語り出した。

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