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chapter.7-38

「…ウッド、敵の戦車でも良いから使える対空砲はあるか」 『戦車…?ホバリング中なら迎撃可能かもしれませんが、そもそもターゲットが死ねば元も子もありません…サー、落ち着いてますか?』 10年以上共に来た副官の声が遠い。 落ち着け。そう、指揮官が喚いて下が死ぬのを何度も見た。不測の事態なら尚の事。 『――サー…RPGの射程外で屋上を監視しますか?屋上への牽制射撃くらいならば…』 「ああ、そう…そうだ牽制を」 虚ろな呟きを耳に、副官やパイロットは急激な寒気を覚える。 寝屋川庵は精神的主柱だ。良くも悪くも傾けばすべてが終わり、今日の今にまた悲劇を繰り返す。 『…いえ、ISILが逃亡など許す筈がありません、依頼主が逃げ出すなど』 「そうだクラーク、アイツは何で逃げ出すんだ…?俺だって事前に電話くらいしたさ、部下の遺体を返してくれと。だが何の話だとCEOは素知らぬ体で電話を切った、何故だ?」 『…本当に知らない、そういう事はありませんか?』 「いいや調停者が協力を要請して来た、此処で間違いない。そして素知らぬ顔をしつつ、迎撃態勢は整えていた…俺を呼びたかったのか?何故?」 『それは…確かに、仰る通り…ですが』 ヘリのエンジン音が止まない無線を耳に、寝屋川はイラクにしては高い本社の建物を見上げる。 一部迫り出した壁の窓。 非常階段が設置されているであろう箇所には、なんと無防備にも人影らしきものがちらちらと横切っている。 『貴方を呼ぶなど、それこそ勲章を得たかったのでは…そして想定外の苦戦に逃亡を図ろうとしている…私には、その程度の存在にしか…』 部下が弁論を続ける中、寝屋川はマガジンポーチから双眼鏡を取り出して人影を注視した。 高倍率で見えた窓には、確かに書類で見たカーキー色の髪が覗いていた。 「――セフィロス」 矢庭に目的の名を呼ぶ上官へ、通信先の部下二人が止まる。 「其処で何をしている」 全てが凍て付きそうに温度の無い声。 詳細を問いたいが舌も動かず、ウッドはただ目で上司の居る方角を凝視していた。

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