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chapter.7-39
「――貴方が殺した人たちの遺体を返せば良いじゃない…!」
漸く屋上まであと数十歩という踊り場。
先ほど砲弾が付近を燃やしたにも関わらず、少女は未だセフィロスに食い下がっている。
防弾とは言え、エントランスへ面する窓には簡素なブラインドが引かれたのみだ。セフィロスは狙撃の可能性へ背後を伺いつつ、抵抗する”神の子”へ語調を強めた。
「君は私の利益になりたいのか、そうでないのかどちらだ?何故黙って従えない!」
「何故ってだって、私は貴方が」
惑って続きを呑み込む。手酷い扱いを受けようが失望もせず、寧ろ以前よりも纏わりつく様な視線へ恐怖すら覚える。
セフィロスはこの少女が嫌いだ。非論理的な執着、根拠のない信頼、すべてが理解出来ず自分と相反した
「貴方を助けたくて、だから反論を…!」
『ザッ――…セフィロス…!アイツが、寝屋川が中に侵入した…!!』
逼迫した無線にセフィロスの面が上がる。
既に1階のバリケードは崩壊したのか、銃声に交じってパニックに陥った悲鳴が飛び交っていた。
急な展開だ。戦車は無力化されたと言え、未だ水際で足止め出来ていた筈が。
『正面入り口だ…!大量に殺しやがった…あの化け物、こっちへ来る…――!』
「…省みず来たか、反吐が出そうな執着だ寝屋川庵」
トラップが起動したのか、柱越しに爆発の余波で地響きが襲い来る。
もう閑話に付き合う余裕はない。セフィロスは乱暴に少女を小脇に掴み上げるや、屋上へと続く最上階に駆け込んだ。
『――臨時防衛線が破れた!非常階段だ…!非常階段を閉じろ!上へ行かれるぞ!』
『司令部――…救護要請…助けてくれ、エントランスがもう血の海で…』
化け物。先ほど無線で聞いた罵声を反芻し、セフィロスの形相は、もう気程の色も無く透明へ溶けていた。
彼の部下は過去、確かにこの会社の地下へ監禁されていた。
そして確かに最後にはセフィロスが銃を向け、マガジンの中を撃ち切ってその5人を始末したのだ。
だから何だ。最初に銃を手に乗り込んできたのは米兵だ。どいつもこいつも気軽に戦争を始める癖に、事が拗れれば被害者面をして、終わらせ方はまったく知らない。自己愛、ミーイズムの極み。
人間が個である以上、自分の主張に全人類は賛同しない。それを分かれない。
いつもそう。そして同意より簡単な沈黙を得る為に、今日も明日も銃を持ち、最も原始的な方法で解決を図ろうとする。
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