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chapter.7-40
「…――電話で聞かれた件の回答が未だだったな、寝屋川庵」
カツン、と新しく床を踏む音がして、少女は背後を振り向いた。
その時、階段を駆け上がって来た何かが、異常に速い呼吸と血の匂いを引き摺って此方に近付いていた。
「私が君の部下を殺した、以上、到着おめでとうと言いたいが」
ぞっとする程の冷気で口内が乾く。
階段を上りきり、何かが闇から輪郭を現して来る。
影から抜け出したその人間は、服の色も分からぬ血塗れながら、確かそう昨晩に裏庭で見た姿と同じだった。
寝屋川庵。他に部下の姿は無く、単身ARだけを手に追い掛けて来たらしかった。
両目に鉛みたいな光を宿し、生気も糞も無い面で腕を上げ、喘鳴しながらM4を対象へと突き付ける。
少女は悲鳴を上げそうになった。しかし直後にM4は床へ転がり落ち、彼は崩れる様に地面に蹲って血を吐いた。
「…残念、後少し命が足りなかったか」
至極淡々とした感想を耳に、少女は目前で苦しむ姿に息を呑む。
死にそうだった。
撃たれたのか肺を病んでいるのか、虫の息で血だらけの胸を押さえるさまは、放って置けば今に事切れそうだった。
不意に思い出す。彼の部下と話すのを楽しみに、職員の目を盗んで地下の部屋へ忍び込んだ日々、彼らに願い事を託されたその時。
彼らは自分の行く末を悟ったのか、ある日”寝屋川大尉に渡して欲しい”と、無理難題と共に走り書きの手紙を押し付けて来たのだ。
”どうにか渡して欲しいんだ、そうでないと”
冗談でしょ?幼いパトリシアはふざけているのかと笑うも、彼らは言い難い顔で頭を振っただけだ。
”頼むよ。そうでないと、あの人は俺たちを捜し続けてしまうから”
「――…無事かCEO!援護に来たぞ!」
喧しい音が増え、少女は回想から無理やりに顔を引き上げる。バラバラと駆け寄る足音が2、3フロアに入り、無傷の両者を目にして立ち止まった。
「無線を聞いたか?寝屋川が此処へ向かって…」
彼らは足元の血に勘付き、視線を下げて慄いた。
床には今し方聞いた寝屋川の姿があり、ピクリとも動かずに蹲っている。
「ああ…おお、寝屋川…何だ流石だなCEO、この化け物を撃っちまったのか…?」
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