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chapter.7-43

「…大方パトリシアを迎えに来たか?ならさっさと連れて消えてくれ、もう5分程で此処には空対地ミサイルが落ちる」 2人の訪問者に驚く様子は無かった。 ただ少女だけが信じ難いという目で上司を睨み、何の温度も無く続く説明へ震えた。 「半径15メートル…本社が吹き飛ぶ程度の威力だが、それで十分終いになるだろう。私の出頭が必要と言うなら後にしてくれ、本件が今回のメインイベントだからな」 「そんな…スタッフはどうなるの?全員巻き込まれて死ねって言うの?」 「悪いがそうなる。彼らはそもそも…既に私の部下でない、国の雇用だ、殆どが…否、もう時間が無いな配達員。正直寝屋川庵が先に辿り着くのは予想外だった、それも連れて消えて貰えると有り難い」 「国…?どういうこと?買収されたの…?この会社はもう貴方の物じゃないってこと?」 「Ms.パトリシア、事情は後でご説明します。この場は我々にご同行下さい」 階下は未だPMC軍とISILがやり合っているのだろう、銃撃に地響きすら唸り、近くのラックがカタカタと揺れている。 「…此処に残ってどうするの?」 真剣に問うた最後の詰問にも、セフィロスが答える様子はない。 空対地ミサイルとは、どの程度の被害が出るのだろう。この建物は鉄筋だが、屋上手前に残って五体満足で済む訳がない。 「一緒に吹き飛ぶ?貴方が…貴方が何をしたかったか少し分かった…理解は出来ないから、貴方が私の事を嫌いなのも良く分か」 「ワンピースは似合っていた」 未だ食い掛ろうとしていた少女が声を削がれた。 唐突な賛辞に微塵も反応出来ず、凍えたようにかさついた唇を戦慄かせる。 「ヒールを履いた歩き方は可笑しかった。練習すればどうにでもなるが…君は父親に良く似ている、私には見えない人間の善意を信じている。だがこの世界にはそれに救われる人間もまた多い、君は君で信じた空を飛べばいい」 背中を向けたままの上司はもう視線すら合わなかった。 なのにどうしてだろう。これまでで一番、言葉のすべてが心臓の奥底まで突き刺さるのは。 「さようならパトリシア、良い旅を」

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