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chapter.7-44

もっと何処かで話し合えていれば結末は違った。 否…それは恐らく唯の希望で、この最後の手前だからこそ、刹那のこの時だからこそ、漸く心を開いて一部の想いが共有できたのだ。 苦い決別を告げられ、少女はそれ以上の言葉を飲み込む。 目を伏せ、望まれた通りに踵を返した。昨日までなら間違いなくそうしていた。 同じ土俵で見てくれたのなら、今日を戦うべきではないのか。 パトリシアは弾かれた様に面を上げるや、勢いのまま退出を促す大人の肩を掴んでいた。 「――来て」 声を張り上げる。 「一緒に来てお兄ちゃん!!」 「お兄ちゃん!?」 「良いから来て!手伝って欲しいの!」 生来ない呼ばれ方をした神崎が怯むも、少女は床を蹴り目当てへと駆け出してゆく。 そして窓に引かれた白いカーテンを掴むと、力任せにフックを千切ってレールから引き剥がし始めた。 「Ms.パトリシア!何を…!」 セフィロスも目を剥いたものの止める様子は無い。 大人を後目にパトリシアは段差の遠い階段を駆け上り、兄を引き連れたまま屋上へ続く防火扉を押し退けた。 「――あ!…早くヘリに乗って下さい、今まで何をしていたんですか!」 「後にして!それどころじゃない!」 屋上のパイロットが少女の姿に声を上げるも、逼迫した状況故に跳ね退ける。 太陽が近い。天板の焼けるようなコンクリートへしゃがむと、パトリシアは褪せたカーテンの端を結びながら、無風の頭上を必死に見渡した。 (高い場所…此処よりもっと) 視界に衛星通信用の長いアンテナが留まり、立ち上がった。 梯子へ手を掛け、高所へ登り始める。固まるパイロットが少女の挙動を傍観していると、俄かに誰かがその肩へと手を置いた。 「おにーさん、ちょっとヘリのエンジン回してくんない?」 「え、は?」 「5分で良いから」 神崎遥。心底眩しそうに眼を眇める面を目に、パイロットは色々用意していた文句を飲み下す。 これは少女の兄だ。何故此処にいる。そして少女当人は逼迫している。最早何が起こっているのかも分からない。 分からぬながらパイロットは舌打ちすると、結局出動命令の出なかった軍用機に向かって踵を返す。 神崎は殊勝な彼の後ろ姿を見送ると、梯子へ苦戦している少女を追って駆け出した。 「おいパトリシア、パンツ見えてんぞ」 「見える訳ないでしょ!…梯子が外れてて、登れない!」 「死に急ぐ奴だなまったく、誰に似たんだ」

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