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chapter.7-45

少女の靴を押し上げて補助してやり、自身も床を蹴って貯水槽の上へと登り切る。 増々太陽が近い朝に顔を顰めるも、この辺りで一番の高所からは、混沌とした街や本社前の戦場が良く見えた。 「ありがとう!でも風が無くて…」 衛生用アンテナへカーテンを括り付け、焦る目が空を仰ぐ。 直後、バリバリと喧しい音と共に、辺りを突風が包んで少女の長い髪を舞い上げた。 パイロットがヘリのエンジンを起動したのだ。 意表を突かれる少女の隣で、アンテナへ括り付けた白いカーテンが揺蕩い、やけに真っ青な空へと浮ぶ。 「来るぞ」 神崎の台詞に弾かれ、抜ける様な青空へ意識を戻した。 覚悟を決める間もなく、セルリアンブルーの彼方には黒点が浮かび、腹に響く轟音が迫り来ていた。 「…パトリシア!あれは…屋内に避難しましょう!」 事情を知らないスタッフがヘリを降り、高台へ立つ両者に向かって叫んでいる。 然れどその目が傍で靡く旗を捉えた頃、彼女らの行いを理解して口を噤んだ。 ハーグ陸戦条約第三章第32条、白旗を掲げた者を軍使とし、交渉を認めよ。 あの兄妹は攻撃機と知った上で、真っ向から出迎えるつもりだ。 攻撃機がISILなのか、PMCなのか、国連軍なのかは分からぬが、一行は青空の中に立つ両者を固唾を飲んで見守った。 「プログラム誘導なら死んでたな」 相も変わらず単調に神崎がぼやく。 確かに態々機長を寄越さず、遠地からミサイル誘導されていれば何の意味も無く消し飛んでいた。 パトリシアは両手を広げ、何もない空へ祈りを込める。 黒い塊は瞬く間に大きくなり、そのフォルムを現し、高度を下げ。 2人の頭上を通過したのは、時間にしてほんの1秒にも満たなかっただろう。 その一瞬に確かに操縦席の機長と目が合い、コンタクトが叶った。音の消えたコマ送りの世界で彼は瞳孔を開き、立ち塞がる白旗の姿を捉えた。 刹那の緊張がかち合い、汗が湧く。判断したのはその良心か、国際法を順守するプライドか。 次のコマで彼は操縦桿を傾けると、急激に高度を上げて消失点へと飛び去っていった。

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