早く病院に向かうべきだと思った。 然れど何か口を挟める気配もなく、パトリシアは只管に昨夜に見た一室を目指す。 黙って続く彼は、辺りを見渡せど何一つ質問してこなかった。 職員は会議室へ避難し、ISILは此処を捨てて撤退した。 途中で数人、彼の部下に出会して足を止めたが、彼が2、3指示を返したのみで敬礼を残し去って行く。 「…ごめんなさい」 「何故謝る？」 唐突に謝罪を零したパトリシアへ、事情を知らない彼は当然のこと疑問を呈す。 「貴方の部下は…私の小さい頃の友達。貴方の名前も聞いてた。でも、最近までショックで思い出せなかったの、もっと早く、貴方を捜していれば」 「いいんだ」 消え入りそう、という訳でもない。然れど話に聞いていた”寝屋川大尉”の声は余りにも儚げで、少女は現実の着地点を見失いそうになった。 「良いんだ、今で」 彼は言う。意味は分からない。 けれど、自虐的な悲しみに棘が刺さる。パトリシアはまた黙り、ガロンが捕縛されていた一室へ早々と踏み入った。 壁を調べ、確かに貰った鍵の嵌るノブを見つけた。背後からの視線を感じながらも錠を開け、埃の溜まった重苦しい鉄戸を押し開く。 「…ああ」 声を発したのは、恐らく自分だっただろう。 照明もない開けた空洞へ見えたのは５人分、此処へ在るべきものの様に遺骨が並んでいた。 バクテリアに食べられつつも衣服は残り、彼らの装備品や時計、彼らが何者であるか識別するためのドッグタグ。 寝屋川は黙ってそれらを一つひとつを確認し始め、時折手を止め、何の色も無い顔で宙を見詰めていた。 そうだ、自分も自分の目的を果たさなければ。 少女は小さいころ缶に封じて地面に埋めたものを捜したが、何故か目当ての物はラックへ分かる様に放置されていた。 息を呑みつつ缶を開き、無事らしい中身を取り出す。 そしてしゃがみ込む彼へ差し出した。変色した便箋。長い年月を得た、彼らの遺言を。